このテストは、前頭葉の働きのワーキングメモリという機能をチェックしている。ワーキングメモリとは、何かの作業をするときに必要な情報や記憶を短期的に保持しておくことで、これがうまく働かないと、作業がはかどらない。仕事だけでなく、人の話を聞きながら説明したり、質問したりするのも、このワーキングメモリが働いているといわれる。
4つの数字を逆から言うことができなかった人は、ワーキングメモリが低下している可能性がある。もしかしたら認知症予備軍の軽度認知障害の、さらに前段階くらいになっているかもしれない。
山本さんは、軽度認知障害の診断を受けたが、回復のためにできるかぎりのことをしようと固く決意した。そして、認知症デイケアに通い、認知力アップトレーニングや楽器を使った音楽療法、集中して絵を描く芸術療法に取り組んだ。特に、筋トレには手ごたえを感じたという。その結果、見事、軽度認知障害から回復することができたのだ。
ラジオ番組の収録の日、山本さんは、ぼくの似顔絵を描いてきてくれた。よく特徴をとらえている。絵もうれしかったが、ぼくは、山本さんが以前にもまして生き生きしていたのがうれしかった。
放送で彼は、早期発見の大切さを強調した。「脳からのSOSのサインは本人がいちばん早くに気が付く。変だなと思ったらまず専門医に相談すること。早期発見すれば早期に治療ができる」
軽度認知障害から回復した山本さんの言葉には説得力があった。
●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。著書に『人間の値打ち』『忖度バカ』など多数。
※週刊ポスト2020年2月21日号