だが、その後、阿部の前に対抗馬として立ちはだかったのが、2015年の講道館杯で阿部を下した丸山だった。「柔道センスのかたまりのような選手」(天理大・穴井隆将監督)で、教科書のように美しい内股や大外刈りなどを得意とし、型破りな阿部とは対局に位置する柔道家だ。2018年グランドスラム大阪で阿部は丸山に敗れ、2019年に入ると4月の全日本選抜体重別、そして東京世界選手権と連敗。阿部と丸山の立場は完全に逆転した。信川は話す。
「決して相性が悪いとは思いませんが、常に果敢に前に出ていくのが阿部の武器なのに、丸山選手と対戦すると下がってしまうシーンが敗れた試合にはあった。丸山選手も前に出て、技をかけたがる選手。丸山選手と対戦して下がってしまえば、丸山選手の思うつぼです。ただ、連敗したことで、阿部の中で吹っ切れたところがある。心配はしていませんし、素晴らしい柔道家である丸山選手に、阿部も決して引けはとらないと思っています」
因縁あるふたりの対戦成績は丸山の4勝3敗。両者は21日に開幕するグランドスラム・デュッセルドルフで直接対決し、昨年の世界王者である丸山が勝てば代表に、阿部が勝利すれば代表決定は4月の選抜体重別まで持ち越されるとみられていた。
ところが、大会1週間前になって、丸山が左膝内側側副靱帯損傷(全治3週間)で欠場が決定。もし阿部がデュッセルドルフを制すれば、代表レースは阿部が逆転し、今度は丸山の立場が苦しくなるはずだ。
どちらが東京五輪の代表となるのか――。それは東京五輪で金メダルを勝ち取ることよりも熾烈で厳しく、端から見れば五輪よりも面白いマッチレースなのである。