「ジェームス先生に『君にどうしてもやってもらいたい役なんだ』と振ってもらえたんです。
研究しまくりました。障がい者の役なので養護学校にも徹底して通いましたし、臨床心理学の先生にもいろいろ聞いて僕との共通点を探りました。
その先生には『家重は貴方そのものじゃありませんか』と言われました。コンプレックスの塊なんです。お坊ちゃま育ちでも、祖父や父といつも比べられ、先輩にはいじめられ。それでも父を継ぐ立場にある。家重と全く同じ環境にいるんです。
ですから、自分なりにこう演じたいというのが最初から出来上がっていました。NHKの反対がありましたが、ジェームス先生が『僕が後ろから押すから。君はやりたいようにやれ』って。西田敏行さん、草笛光子さんも後押ししてくれました。
演出家をみんな集めて『彼の中にはこういう苦しみがあり、こう言わないといけないんです』とかレクチャーして、理解してもらいました。受け入れてくれたチーフ演出の大原誠さんもありがたかったですね。
父からは『ああいう役をやったら損だ』と言われました。スターから見ると、そうなんでしょう。でも僕は中村翫右衛門やジャック・ニコルソンみたいに『そこまでやるか』という役者になりたかった。ですから、とことんまでやりました」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
■撮影/黒石あみ
※週刊ポスト2020年2月28日・3月6日号