男性保育士には「遊んでくれるお兄さん」という役割もある
内藤さんは心優しい人である。しかし、とかく見た目で人を判断する世間のルッキズムの最底辺にあり、女性ウケは最悪だ。本人が書けと言うのでこうして書くが、内藤さんのルッキズムによる理不尽な差別に対する怨みは深い。そのために職まで失ったのだ。
「子どもに手を出したという濡れ衣です。保護者からの抗議は一方的でひどいものでした。いまで言うモンペですね。もちろん僕は何もしてません。でも、同僚の保育士も助けてくれませんでした。僕は辞めるしかなかった」
◆面白い男性保育士として子どもたちからは人気者
かつて内藤さんは保育士をしていた。昔の名称だと保父さんか。高橋留美子『めぞん一刻』の主人公、五代くんが選んだ仕事でもある。だがいわゆるモンペ、モンスターペアレンツと呼ばれる、問題のある親による一方的な言いがかりで仕事を失うことになった。一生涯を捧げられる仕事だと思って資格をとり、働いていたにも関わらず。
「子どもが好きなのと就職氷河期だったので、手堅い仕事ということで保育士の道を選びました。男性保育士の需要が高まるという話も当時は盛んに言われてましたし」
いまでは考えられない話だが1990年代、保育士や福祉士は将来的に需要が伸びる人気資格とされ、大学や専門学校、学部が次々と新設された。内藤さんは中堅公立校から保育の専門学校に進学、就職はルックスで不利なため大変だったそうだが面白キャラで乗り切ったという。容姿が重要なんて、なんだか芸人みたいだ。
「資格を持っていても、採用されるかどうかは別です。保育園って容姿も結構重要なんです。子どもはイケメンと美人が好きですから、若くてイケメンだったり美人だったりする保育士が優先採用です。とくに美人。もっとも、普通の容姿なら大丈夫ですけど。むしろ普通の何のキャラも立ってない人のほうがいいくらい、それで爽やかなら完璧」
経験者採用だとまた違ってくるそうだが、新卒はそんなものらしい。もっとも、美麗な人が新卒時に有利なのはどの業界も一緒だろうが。
「あとは面白い人ですね。変な顔したユーチューバーが子どもに人気なように、子どもは面白い人も好きです。僕はそっちで押し通しました。ただ、イケメンだろうと面白かろうと、保育の世界は男の地位が低い。若い男性保育士は男芸者をするしかないのもあるんです」
保育の世界は徹底した女社会である。これは保育側がというより保護者の側の問題が大きいが、子どもを預けるのに安心なのは女性、という固定観念はなかなか覆し難い。本来、子育てに男も女もないのだが。
「男性保育士の地位が低いといっても、女性保育士にはない、“遊んでくれるお兄さん”という需要もあります。力仕事も多いですから、重宝されることも多いです。でもね、ブサイクな男は違います」
内藤さんはオタクでもあるので子どもの興味ある児童向けアニメやゲームにも詳しく、それも生かされた。ところが歳を重ねるにつれ、園から自分が疎まれていると感じたという。
「若いころは“ブサイクなお兄ちゃん”で済んでも“キモいおじさん”に昇格すると全人格を否定されてしまいます。面白キャラで努力してきたのですが、若ハゲが進行しておじさんになれば何の意味もありません」