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41歳元保育士男性が語る「罰ゲームのような人生」の要因

◆たとえ「キモくて金のないおっさん」だとしても

 内藤さんは30を過ぎたばかりだというのに退職を余儀なくされた。この歳でおじさんはないと思うが、内藤さんは年齢の問題じゃなく見かけの問題だという。若ハゲでキモい自分は30歳でおじさんになったと。それもキモいおじさんだ。

「それから保育と関係ない工場の派遣とか介護、倉庫など転々として、いまは警備員の仕事をしています。警備と言っても二号警備、工事現場の案山子です。工事現場、気楽ですよ。見かけもなにも関係ない世界ですし」

“KKO”というネットスラングがある。「キモくて金のないおっさん」を略したものだが、内藤さんは自分がまさにそれだという。それは違うと私は思うが、現実に彼のような中高年を救う社会的コンセンサスは皆無といっていい。不幸で理不尽な退職だったとはいえ、その後が非正規や派遣ばかりというのもまずかった。

「フェミニストのみなさんも僕みたいな男の存在にはだんまりなんですよね、男にだって弱者はいますし、こんな僕のような存在は女の人以上に救いがないのに」

 なるほど、同じ条件でもおばさんなら弱者だが、おっさんは弱者とみなされない。憲法上の「健康で文化的な最低限度の生活」という25条すら適用されないと言ったら言い過ぎだろうか。だがKKOというだけで生活保護を受けようと思ってもまず無理なのは事実だろう。これは団塊ジュニアの男全員が将来的に危機感を持つべき、恐ろしい通念である。「キモくて金のないおっさん」を国も社会も救わない。

「僕は女性経験もありません。保育士時代に仲が良くなったり好きになった同僚はいますが、やっぱりこんな容姿ですからね、恋愛感情を出した途端に嫌われ、の繰り返しでした」

 別にブサイクでも結婚できたり彼女のいる人はいる。内藤さんは面白いキャラを頑張って作れるが、それだけでは難しいのだろう。怪物として怖れられるが本当は心優しいと気づく姫と相思相愛になる映画『シュレック』は、おとぎ話でしかないということか。

「なんでこんな罰ゲームのような人生になったかわかりませんが、前世でなにかしたんでしょうかね。このまま歳を取ると思うと、早くこんなクソゲーみたいな人生終わらせたいと思うこともあります。でもね、今の子どもたちは違ってきてると思います。生まれる前からかわいいとか平等にかわいいとか、子ども向けでもそういうことが言われる時代です。そういう世の中になるべきです。僕は来世に期待ですけど、子どもたちは容姿の偏見に左右されない将来を迎えて欲しいと思います」

 生まれる前からかわいい、平等にかわいい、とは内藤さんが好きな女児向けゲームの言葉だそうだ。「かわいい憲法」と称するらしいが、この幼少期からの肯定感の植え付けはいいかもしれない。私たち団塊ジュニアの教育は何もかも否定から入った。その延長線上にあるルッキズムの果て、ブスやブ男はアニメに出てくるブサイクどころか人間ですらない特撮の怪人に例えられるなど、つらい思いをした。もちろん人間とはそういうものかもしれないし、それは今も根強く残っているが、少子化ですべての子どもが大事にされ、文化レベルの向上もあって、昔のそれに比べればマシになった。

「このゲーム、なるべく子どもがいない時に遊びますが、それでも夜なのに一人で遊んでる子もいるんです。カード交換したりしますけど、うっかり事案になると思うと怖いですね。夢は自分の子どもとゲームで遊ぶことです。もちろんその前に奥さんですけど……まあ、絶望的ですね」

 こんなおじさんが団塊ジュニアにはごまんといるだろう。キモくて、金がなくて、オタクの童貞おじさんだとKKODOか。一人暮らしの内藤さんは違うが、これに子供部屋おじさんの属性を加算したらKKODKOとなる。なんだか国連機関にありそうだ。

「昔は、世の中の偏見通りに踏み外してなるものか、なにくそと思う部分が強かったんですが、40歳を過ぎて、だったらみんなが思うようなヤツになってやろうかと思う自分がいるんです。怖いですね」

 真っ正直かつ真面目な人でも、理不尽の積み重ねがひどいと歪んでしまう。社会の不条理に真正面から向き合うのは危険だ。暴走したKKOは無敵である。これまでの「おっさんなんか野垂れ死ね」ではなく、治安面でも救済は考えるべきだ。

「でも僕はオタクだからよかった。そんな面倒なことより趣味の同人誌のほうがいいです。アニメやゲームなど、二次元の世界で十分に満ち足りています」

 そう、幸い内藤さんには趣味のアニメやゲーム、そして同人活動がある。趣味と創作に生きるのは健康的だし、内藤さんにとっての幸福だろう。蔑視する者は数多いるだろうが、相対的な幸福など必要ない。幸せは自分のものだ。幸福の絶対化だ。内藤さんはそう悟ることができるくらい、何度も書くがまともな人なのだ。それなのに、本当に理不尽な話だ。でも、ひょっとしたら怪物の見た目に惑わされず愛してくれる『美女と野獣』や『シュレック』の姫のような女性が内藤さんにも現れるかもしれない。モテモテである必要はない、心の通うたった一人の女性でいいのだ。可能性はゼロじゃない。内藤さんは良いパパになるだろう。

 それにしても、次代の子どもたちにこうした我々世代の悪しきルッキズムが継承されないことを願わずにはいられない。私も美しいもの、可愛いもの、カッコ良いものは大好きだが、だからといってそうではない側のリアルな人権まで奪う社会の現状はうんざりだ。

●ひの・ひゃくそう/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ正会員。ゲーム誌やアニメ誌のライター、編集人を経てフリーランス。2018年9月、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。2019年7月『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)でノンフィクション作家としてデビュー。12月『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)を上梓。

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