コロナショックで外国人観光客がいなくなった京都(時事通信フォト)
そもそも、訪日外国人旅行者の増加は、政府の観光立国推進とリンクしてきた。世界的な旅行ブームという背景の中で、ビザ、LCC(格安航空)など外国人旅行者が日本を訪れやすい条件が揃っていったという側面もある。具体的な推移を見ると、2013年に訪日外国人旅行者数が初めて1000万人を突破、2016年には2000万人、2018年末には3000万人と激増していった。
そうなると当然、宿泊施設が不足するわけであるが、“目標6000万人”などと沸き立つ観光立国のさらなる推進を好機と捉えた事業者は次々とホテルプロジェクトを立ち上げた。2014年から2018年の5年間で約600軒のホテルが増加(観光庁統計)したとされるが、この中には異業種から宿泊業への参入も目立った。
増加したホテルの多くが宿泊特化型のホテル、いわゆるビジネスホテルだ。“宿泊に特化”といえば簡易宿所の激増も見逃せない。簡易宿所とはカプセルホテルやホステルといった業態であるが、上記統計によると約7000軒も増加したという。法令が整備された民泊のインパクトも相当だ。
だが、外国人旅行者が激増したからといって、一朝一夕にホテルは完成しない。筆者はホテルプロジェクトへ参画する機会もあるが、プロジェクトスタートから建設、開業まで2~3年は要する。2015、2016年と訪日外国人旅行者の激増に呼応するかのようにホテルプロジェクトも増加したが、実際の開業は2018、2019年になるわけで、その間はホテル需給のミスマッチが起きることになる。
他方、簡易宿所や民泊は開業まで1年以内、中には半年というケースもあり、宿泊業全体から見るとホテルができない供給を補完した側面がある。簡易宿所や民泊のスピーディーな開業は、増加した訪日外国人旅行者需要にマッチしたとも取れる。
それでも、シンクタンクをはじめホテルコンサルタント会社などからも、「まだまだホテルは足りない」という声は根強かった。インバウンドによるホテル需要がいかに大きかったが伺えるが、筆者は2017年5月に「2020年に向けて供給過多へ陥る可能性」と「インバウンド頼みの危険性」を指摘し、業界から顰蹙(ひんしゅく)を買った。
これは前述したホテル特有の計画から開業までの“時差”と、簡易宿所の激増、異業種参入増加の連鎖に着目したことによるが、インバウンド頼みについては、当時様々な業態の宿泊施設への取材を行った。その結果、“さらにインバウンドに重きを置く方針”のホテルが大勢を占める中、“インバウンドのコントロールを始めた”施設もあった。
その後も「ホテルが足りない」というシンクタンクの試算は続いたが、一転“ホテル不足解消”と公表されたのが、2019年末である。
理由としては、ホテル客室数の供給増加、日韓関係の悪化による韓国人旅行者の減少等、訪日外国人旅行者数の鈍化など挙げられた。そして、2020年に入りさらに大きな問題が露呈した。新型コロナウイルスによる感染症拡大の問題だ。