学校を変えた西郷校長もついに”卒業”(撮影/浅野剛)
《学校はルールを学ばせるところだ。社会に出たら規則を守れない人間になる》
《実社会では理不尽なことが多い。いま自由を許したら、将来やっていけなくなる》
批判的な意見を伝えてきた人のほぼすべてが、同校の保護者ではなく、記事を読んで義憤に駆られた人たちだった。
「自分の受けてきた教育が正しいという先入観があるのか、または本校のような学校に自分も通いたかったという嫉妬なのかもしれません」(西郷さん)
尾木さんも言う。
「“桜丘のやり方では、社会に出てからやっていけない”と言う人たちがいますが、本来は、子どもたちが、社会や企業にどう適応するのかではなく、学んだものをどう生かせるような社会を作るのか。つまり、主客が逆なのです。
みんなが幸せを感じながら毎日楽しく仕事ができる職場を作る。それがひいては社会のためになるし、平和な世界にもつながっていく。そういうアイディアを生み出す力なり、考える力を磨くのが、本来の学校のあり方です。社会のために学校があるのではありません」
だが、同じ世田谷区に住む保護者の中にも、外から桜丘中学校を見て否定する人がいる。近隣の中学校では、「うちの子は自立していないから、桜丘中のような自由な学校に通わせると、楽な方に流されてしまう。だから厳しく管理してほしい」と申し入れた保護者がいたそうだ。隣接する公立中学校でも、保護者会で「うちの中学校は、桜丘みたいにはしないでください」と訴えた保護者もいた。
桜丘中学校に通う生徒の親は、「本当は学級崩壊しているんだって?」などと気の毒がられることがあったという。
◆子どもに影響され「私だって何かできる」と前向きに
誤解を払拭し、実際はどんな取り組みがなされているのか知ってもらおうと、昨年11月30日に、保護者の有志が発案して、講演会『桜丘中学校ミライへのバトン ~選びたくなる、公立学校とは?~』を開催した。登壇したのは校長の西郷さんのほか、同校の理念に共感する尾木さんと麻布学園理事長の吉原毅さんの3人。事前に充分な告知ができなかったにもかかわらず、約1000人の申し込みがあり、キャンセル待ちも出た。
講演は出席者の多くから肯定的に受け止められ、ネットニュースや新聞、雑誌でも大きく報じられたりもした。この講演会の内容は『「過干渉」をやめたら子どもは伸びる』というタイトルで一冊の新書として4月2日に発売される予定だ。
会場で配布したアンケートには、参加者の8割もが回答をした。子育て世代の切実な悩みや学校生活に戸惑う子どもたちの声は、読んでいて胸が熱くなるものばかりだった。このことは、後に世田谷区議会でも取り上げられ、桜丘中学校の取り組みを、区域全体に広げていこうという意見も交わされるまでになった。
講演会の主催者の1人である保護者の橋本陽子さんは、桜丘中学校に子どもが3年間通ったことで、多くの学びがあったと話す。