ホンダ「S660 Modulo X」。一緒に写っているのはホンダアクセスのアドバイザーを務めているレーシングドライバーの土屋圭市氏
ところで、冒頭で述べたように、日本には3つのオープンカーがあるが、キャラクターはそれぞれ異なる。コペンと同じ軽自動車のホンダS660はエンジンがキャビンの後方に積まれるミッドシップ方式。荷物が全然乗らない、屋根の取り外しが手動といったマイナスポイントはあるが、シートの位置が著しく低く、運転感覚は大変に新鮮だ。税金や燃料代の維持費が安いのも嬉しいポイントだろう。
ホンダ「S660 Modulo X」の室内
マツダのロードスターは最も古典的なオープンカー。フルオープンだけに開放感はコペンと同様に高い。また普通車であるため性能的な余裕、荷物の積載性、ロングドライブ耐性の面でも優れている。
電動ルーフのマツダ「ロードスターRF」
プレミアム感満載のマツダ「ロードスターRF」
だが、筆者があえて押したいのは、フルオープンではない電動ルーフのロードスターRF。ボディ下部の繊細な造形を際立たせる美しい曲面の屋根が大変に似合っており、インテリアの装飾もなかなかにビューティフル。日本車には珍しく、クルマの所有・使用目的と演出の方向性がぴったり合致した、プレミアム的“良いもの感”がある。動力性能も軽量車体に排気量2リットルエンジンを組み合わせているため、十二分に良い。
昔はこれらのクラスの上にもオープンがあった。日産「フェアレディZ」、トヨタ「ソアラ(レクサスSC)」、マツダ「サバンナRX-7」、三菱「エクリプス」などだ。量産によるコスト削減最優先の流れのなかでそれらの大半は姿を消したが、こういう高価格帯クラスでもオープン化を期待したくなるモデルはある。そのひとつはトヨタがBMWのプラットフォームを使って開発したスポーツクーペの「スープラ」だ。
オープン化を期待したいトヨタ「スープラ」
スープラのプラットフォームは元々オープンボディ用で、それを無理やり2by2の4人乗りにすることなく2人乗りのままスープラとして仕上げたことを考えると、幌や可動ルーフを収納する機構を実装するための改設計の難易度は比較的低いものと考えられる。もちろんそれを作ったからといって大量に売れるものではないので、そういうことをやるかどうかはオープンエアに対するトヨタの思いの強さ次第であろうが……。
世の中は今、効率化の一辺倒。それとはモロに対極に位置するオープンカーの立場は常に厳しい。が、快楽追求という人間の本性は歴史の開びゃく以来、数千年なくなることはなかったし、これからも変わることはない。
こんな時代だからこそ、あえてオープンに乗るという伊達や酔狂にももうちょっと関心が向けられてもいいのではないか。ツーリングを通じてそんなことを思った次第だった。