ユーミンが提供したシングル7作はすべて1位に輝いたが、何度も書き直しを命じられたと彼女は明かしている。若松の聖子に対しての注文も当然厳しく、スタジオで聖子が怒気をはらむこともあった。
「じゃあ若松さん、歌ってみてくださいよ」
若松の返事は決まってこうだ。
「俺は歌手じゃねえから歌えねぇよ」
それでも、若松と聖子の言い争いは尾を引かない。
「彼女が成功したのは、いい意味で後先考えない部分。デビュー2作目に『青い珊瑚礁』のような高音のサビ始まりを歌わされたら、普通は不安で仕方ないけど、聖子はそれを迷わない。もちろん、絶対的な音感の良さもあったんだけど」
松本隆は自身の公式サイトで、スタジオのスピーカーから流れるたびに「作り手冥利に尽きる」と感心する歌声だったとコメントしている。
【プロフィール】いしだ・しんや/1961年、熊本県生まれ。「週刊アサヒ芸能」を中心に芸能ノンフィクションを執筆。主な著書に『ちあきなおみに会いたい。』(徳間文庫)、『甲斐バンド40周年 嵐の季節』(ぴあ)などがあり、最新刊『1980年の松田聖子』(徳間書店)が発売中。
※週刊ポスト2020年4月24日号