代ゼミの教え子だった英語講師の森田鉄也氏と談笑

◆どんな観光でも学べる場所を作りたかった

 晴れて予備校講師となって一時代を築き、ある程度稼ぐこともできた。そこで吉野は次なる挑戦をしたくなったと明かし、3月で東進を退職すると動画の世界へ飛び込んだ。代ゼミの教え子で東進の同僚だった英語講師の森田鉄也氏とYouTubeの予備校「ただよび」を開設。4月6日から古文と英語の授業を日々配信している。東進にも衛星授業があるのになぜ退職してまでYouTube?と思うが、この挑戦は悲願だったという。

「高い授業料を払う予備校の衛星授業と違ってYouTubeの予備校『ただよび』は無料配信がポイント。予備校で教えながらずっと教育の無償化を考えていて、所得による教育格差をなくそうと2007年の参院選に出馬しようとしたこともあった。だってお金がないから塾へ行けない、大学進学の学力が身につかないというのはあまりに不公平じゃない。社会は不公平だけど受験の機会は公平であっていい。YouTubeなら誰でもいつでもどこでも、無料で見てもらえますから」

 当面は大学受験を見据えて、偏差値50以下の層を狙った授業を行う。

「予備校講師として自分の授業はどんな学力でも理解できる“最後の砦”だと心がけてきました。まずはできないことをできるように、そうすることでその先のハイレベルな学習へ進んでいける。大学受験で結果が出せたら、次は中学受験をやります。中学受験から大学受験まですべて予備校授業の無償化をするのが長期的なビジョンです。

 傍からすればこんな髪や服装をして暴走族で売っている一発屋みたいに思われるだろうけど、長年携わってきた受験界への恩がある。教育の無償化に取り組まないと棺桶に足を突っ込むときに後悔するんじゃないかなって。評価が出るのは死んだ後かもしれないけれど、そのときに『この授業おもしろいな。この人が生きていたら120才か』って言われたりしてね。永久に残るのもYouTubeの利点です」

 ゆくゆくは古典を原文で読む生涯学習や外国人に日本語を教える授業などもやってみたいと、夢を膨らませる。

「ちなみに動画授業を収録しているのは恩師・有坂先生の自宅と同じ青山一丁目。なんだか運命を感じちゃうよね(笑い)」

 フィールドは変わっても受験生へ授業を届けることは変わらない。「『ユーチューバーに転身ですね』と言われることもあるけど、ぼくはいまだって自分は“予備校講師・吉野敬介”だと思っている」とかみしめるように語った。

動画編集は全幅の信頼を寄せる森田が担当(撮影/田中智久)

【プロフィール】
◆吉野敬介/よしの・けいすけ。神奈川県鎌倉市生まれ。20才の9月に大学受験を決意。猛勉強で国語の偏差値を25から86に上げ、國學院大学文学部に合格。大学卒業後、代々木ゼミナールの講師採用試験に史上最年少かつ史上最高得点で合格。以降16年間トップの座に君臨。2008年4月より東進ハイスクールで再び教壇に立ち12年間トップの座に君臨。2020年3月に東進ハイスクールを退職し長年の夢であった「教育の無償化」を実現するため、同年4月より授業料無料の『ただよび』を立ち上げ、Head Master(校長先生)に就任。

※女性セブン2020年4月30日号

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