アポ電強殺容疑者の自宅から荷物を運び出す捜査員(時事通信フォト)
実際にSNSを覗いてみると、高額バイトや日払い、などと言ったキーワードを用いて、グレービジネスをやってみないかと仕事を募る書き込みは、筆者の感覚からも増えている印象だ。海外で特殊詐欺に関わった連中が次々と逮捕され、きっかけはSNS上のやりとりからであった、という報道が相次いだ去年から今年にかけて、いったん書き込みは確かに減っていたはずだった。だが最近の1ヶ月ほどで、「詐欺」の書き込みも、そして「詐欺師を募る」書き込みも、増えている。
さらに不安なのは、特殊詐欺の最終形ともいわれ、中には殺人を伴うケースまである「アポ電強盗」が増えるのではないか、という懸念である。アポ電強盗とは、特殊詐欺で得た名簿や個人情報などをもとに、詐欺グループのメンバーが金銭目的の強盗を働くというものだ。殺人にまで至った悲惨な事件も起きている。
「政府もメディアも芸能人までも”みなさん家にいて”と言うわけです。そうすると、アポ電強盗に関わるような奴にしてみれば、機会が増えるということに他ならない。アポ電強盗を行う場合、事前に警察や役所になりすまして資産状況などを電話で聞き取りデータ化し、在宅時間がいつなのか、現場宅の近くを下見して逃走ルートを調べるなどします。資産状況などのデータはかなりあるはずで、在宅時間が増えている昨今ですから、当局もアポ電強盗が増える可能性を危惧しています」
こう話すのは、大手紙の警察担当記者。直近で起きている「アポ電事件」をそのまま「コロナウイルス感染拡大の影響」とは断じられないとはいいつつも、懸念は広がっていると言う。
社会不安に乗じて犯罪を行おうとは、卑劣にも程が有るが、犯罪に手を染める連中もまた「不安」を抱えての上で犯行に及んでいることも忘れてはならない。真面目に働こうと犯罪から足を洗ったものの、結局仕事がなくなり犯罪に再度手を染める。社会不安によって再び悪の現場に呼び戻され、社会の混乱にいっそう拍車がかかる。本当の危機の時、人間の本性が見えて来るとはよく言ったもの。ウイルスによって不安になった人々が、身勝手な理由、そして止むに止まれぬ理由からさらに人々を不幸にする行動に移る。これが一番の怖さなのだ。