実はこの春、三島氏らは書店―版元間の受注作業を効率化する画期的プラットフォーム「一冊!取引所」を運用開始予定で、HPにこんな言葉がある。〈思いを込めた「一冊」がちゃんと届くために、書店と出版社の取引をもっと便利にしたい。やりとりをもっともっと楽しくなるようにしたい。この「取引所」は、これからの書店と出版社が自産業を未来へつなげていくために、一緒に育てていく「自分たちの」システムです〉
「読者に本を届けるまでが一冊入魂だといいつつ、手書きの注文票を各書店とFAXでやり取りする昔ながらのやり方に頼って疲弊しているのが現状です。その労力を、本作りや選書という互いの本来の仕事に注ぐためにもこの取引所は必要でした。今は効率化しちゃいけない部分ほど効率化されがちです。でも僕は手間暇かけないと生まれない熱量って絶対あると思います。本書はその熱量をどう確保するか、6年がかりで考えた記録でもあるんです」
序章〈出版不狂説〉の中で〈好きだけでは仕事はできない〉のは本当かと再三問う彼は、それでも好きや面白いが先にある〈マグマ発の本〉こそが閉塞を打破すると直観。鳥取県智頭(ちづ)町でパン屋とビール工房を営む渡邉格氏や、秋田県五城目(ごじょうめ)町に300年続く蔵元、福禄寿の渡邉康衛社長など、一見出版とは無関係な旅や出会いにヒントを得ていく。
「酒造りをもう一度手作りに戻し、上質なお酒を適切な量だけ作る一方、効率化できることは効率化する福禄寿の渡邉さんと出会うべき時に出会えたのも、本当にたまたまなんですけどね。
他にも新たな農業の形を移住者と模索し、島の魅力に繋げつつある周防大島でのうねりのようなものとか、まだ形にならない〈種〉から学んで伝える僕らの方も自ら変わる必要があった。しかし日本酒には守るべき伝統やご先祖様がいるのに対し、現在の出版は洋紙産業。古来からの和紙とは断絶がありご先祖様がいなかった……。でも一見絶望的なこの発見が、〈キンダイの超克〉という章に繋がるんです」