佐藤愛子さんとの共著の単行本のタイトルは『人生論 あなたは酢ダコが好きか嫌いか』
佐藤愛子さんと小島慶子さん。意外な取り合わせ。正直に書けば、最初“え、二人は話が合うの?”と思った。佐藤さんがどこかで、最近の人は“ややこしいのねえ”みたいな嘆息を漏らしている文章を見た記憶があるからだ。焼け跡の青春、文学仲間との結婚、筆一本で成し遂げた夫の借金返済と、無我夢中で生きてきた佐藤さんにとって、コンプレックスとかトラウマとかジェンダーとかカタカナで自己分析に励む世代は、確かにややこしい世代に違いない。
でも、だからこそ面白い。この書簡集はいきなり核心から始まるという尋常ではない滑り出し。東京の「出稼ぎ部屋」で孤独をかみしめる小島さんは自分が一家の大黒柱になった経緯を語り、なぜ夫はこうも私の孤独と不安に無頓着なのかと不満を漏らす。対する佐藤さんは「慶子さんは愛し過ぎ」、「愛が深いから、求める愛も深くなる」、女のできそこないの自分は、相手の愛が少量なら“あ、そう”と思うだけだと書く。粘っこく夫婦喧嘩を引きずる小島さんに対し、佐藤さんにとっての夫婦喧嘩はうっぷん晴らし、「一服の清涼剤」だったというのもおかしい。
夫婦観だけでもこんなに違う。信頼し合っているのに“似てない関係”ってなんて刺激的なんだろう。読者としてあらためて発見する。怒りを書いているときの佐藤さんの活力、自然描写をしているときの小島さんの安寧。最終章で佐藤さんが小島さんの結婚生活に対して下すご託宣にもご注目を。読みやすいのに密度の濃さは特筆級。ああ、面白かった!
※女性セブン2020年5月21・28日号