母のもの忘れは着実に進んで、ヘルパーさんに助けてもらうことも増えてきたが、不思議なことにまったく忘れない習慣もある。郵便物を取りに行くこともその1つだ。
サ高住の玄関脇に郵便受けがズラリと並んでいて、もちろん名前表示はあるが、複雑なダイヤル式の鍵を、母が難なく開けるのもまた驚きだ。
ここに母宛の郵便が届く。とはいえDM広告や自治体からの書類など、ほとんど私が後で捨てたり処理したりする類のもの。開封せずにおいてほしい書類もあるが、母はすべて先に開封するのだ。
それもこれまでは暇に任せてやっているのだろうと思っていたが、Iさんの絵はがきを愛おしそうに手にする母の姿を見て気づいた。たまに来る私信が、郵便受けに届くのを待っているのかもしれない。電話もいいが、自分への思いがしたためられた手紙が配達される特別感はほかにない。
Iさんの絵はがきを郵便受けに見つけたときの母の喜びようや、“コとロとナ”の謎にときめいた気持ちを想像し、「手紙っていいものだな」としみじみ思うのだった。
※女性セブン2020年6月11日号