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「やめたいのにやめられない」ネット中傷を続ける女性の告白

 また孤独は「孤毒」である。チューミンさんの家族関係や恋愛など聞けるわけもなかったが、生身の人間との交流、リアルにこそやめるきっかけはあると思う。素朴でつたない考えと笑われるかもしれないが、人間とは素朴でつたないものだ。きっとチューミンさんも教員にもしなったら小学校で思い出すだろう。生身の人間との素朴でつたないやり取りの日々こそが大切であり、それを愛だということを。申し訳ないが、それほどまでに大切なものはSNSになんかない。あると思うならそれは幻想だしヤバい。SNSそのものは便利な「道具」でしかないのだ。その他、私などが医療面でのジャッジはできないのでアドバイスしか出来なかったが、やめたいのにやめられないなら医療機関に相談くらいはしてもいいだろうということも伝えた。

 今回は難しい取材となった。元々、SNSの誹謗中傷による事件をきっかけに、私はトレンドブログやまとめサイトを複数運営する小さな会社と取材の交渉をした経緯でチューミンさんを紹介された。その会社とは少し取引のような形になってしまい事の詳細は明かせないが、ネットの誹謗中傷にはこのような営利企業も介在していることは事実であり、うかつに煽られたり乗せられたりしてはならない。

 善人、むしろ聖人君子ではないかと言われるほど良い人が悪に染まってしまうことを表現する「闇落ち」という言葉があるように、人間とは他者を攻撃する本来的な野性を持っている。それはひどく観念的で、エゴに基づく行為だが、本人は正しいことと信じている。いまさらリテラシーの話を持ち出してもSNSに限れば誹謗中傷者の大多数は聞く耳など持たないし、訴訟をちらつかせても法を行使しても限界はある。これはチューミンさんのことではないが、何も失うものが本当にない「無敵の人」には一切効かない。結局のところ、SNSの運営会社が営利を犠牲にしても健全化を図り、国家の介在もやむないところだろうと私は考える。テレビに出演していただけのプロレスラーの女の子を罵り、死に至らしめる言葉を「言論の自由」とは言わないだろう。またテレビ番組そのものの是非はともかく、死ぬまで追い詰めていいという免罪符にはならないし、そもそも命題の違う話だ。そしてチューミンさんなどは数多いる「ネット民」であり、先の「無敵の人」以外にも他者を苦しめたい、殺したいという不治の人間も存在するわけで、法的な整備は必要だ。思想や言論の自由を脅かすという向きがあるのは当然だが、個々人の人権もまた守られなければならない。事業者による規制と法による介在がいま求められている。それを嫌い道徳のみをとなえる者は、「実際の道徳の世界は大部分悪意と嫉妬から成り立っている」(ゲーテ)ことを知らない幸せな人々か、知っていながら利己のためにそれをとなえる道徳の目的外利用者である。

 SNSの誹謗中傷をやめたくてもやめられない人 ―― 私にとって非常に興味深かったし、一事例でしかないにせよ、その誰も彼もが根っからの悪魔で終わってる人、というわけではないことを認識させられた。そしてこの告白をしてくれた彼女は勇気のある人だと思う。もちろん悪人でもない。誰しも人間という動物である限り攻撃的な欲求からは逃れられない。これは有名無名関係ないだろうし、有名人の中にも実名出して罵詈雑言を撒き散らしているからこれは誹謗中傷ではないという謎理論をSNS上で展開する御仁もいるようだがそれは違うだろう。

 コロナという疫禍は予想通り、人間の本性を残酷なまでに露呈した。アルベール・カミュが『ペスト』で警告した疫禍における人間の恐怖について、私たちは、世界は何も教訓とし得なかった。いま現在もSNS上では誹謗中傷が飽くことなく続けられ、ツイ消し、アカ消しで逃げたかと思えば別アカで同じ愚行を繰り返す人間の巣窟と化している。そしてアメリカでは、リアル社会でその愚行が繰り広げられ、暴動と混乱の火の手が全米を覆う異常事態となっている。あのようになってはいけない。私たち日本人なら踏みとどまれるはずだ。

●ひの・ひゃくそう/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本福祉大学卒業。評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で第14回日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。2019年7月『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)でノンフィクション作家としてデビュー。12月『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)を上梓。

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