9日の会見では滋さんへの思いや、即時一時帰国を求め続けることを語った(撮影/関谷知幸)

 記者会見では常に髪をきれいに整え、はにかんだような柔和な笑顔と穏やかな語り口を忘れることはなかった。

「そんな温厚な滋さんが、激しく怒りを露わにしたのは、“あのとき”くらいですよ」

 と、前出の西岡氏は言う。あのときとは、2002年、日本側の担当者が「めぐみさんは死亡しました」と伝えてきたときのことだ。

「滋さんが外務省を問い詰めると、日本側で充分な確認作業はしておらず、北朝鮮側の言葉をうのみにしただけとわかったんです。滋さんは『人の命をこんなに軽く扱うのか』と、激怒していました」(前出・西岡氏)

 その際、会見場でも滋さんは感情的になり、嗚咽を漏らし何度も言葉に詰まった。そうしたとき、そばには常に妻の早紀江さんがいた。「私まで泣いてしまっては、めぐみがかわいそう」と、滋さんの代わりにマイクを握り、「まだ生きていることを信じ続けて、闘っていきます」と毅然と宣言したのだった。

 別人の遺骨が送られてきたときには北朝鮮への経済制裁を求め、滋さんは国会前で3日間の座り込みを行っている。そのときにも、隣には早紀江さんがいた。

 夫婦を40年にわたり支え続けてきた斉藤眞紀子さん(83才)が語る。

「よき時代のご夫妻なんです。直接口では言わないけど、お互いを想い合っていてね。6月8日の滋さんの葬儀の場でも『お父さんがめぐみの弟2人を立派に育ててくれた』と感謝していました。滋さんも生前、『めぐみを捜しながらも手作りの料理を作って息子たちに食事をさせてくれて。本当に(妻には)感謝している』と私に教えてくれてね。同じことを感謝し合っているなんて素敵でしょう。口数は少なくて、でも笑顔を絶やさない几帳面な滋さんと、明るくて気丈で手先が器用な早紀江さん。本当に品のよいご夫妻でした」

※女性セブン2020年6月25日号

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