国内

横田滋さん、外務省に「命をこんなに軽く扱うのか」と激怒

横田めぐみさんの拉致から40年。記者会見する滋さん(右)と早紀江さん(2017年11月15日、神奈川県川崎市、写真/時事通信社)

 振り返れば、人生の半分を拉致との闘いに捧げていた。1977年に北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの父親の横田滋さんが、6月5日に亡くなった。だが、87年間の生涯は決して怒りと憎しみに埋もれた人生ではなく、妻の早紀江さん(84才)と共に歩んだ笑顔と慈愛に溢れた人生だった。

 1977年11月14日。「これからはおしゃれに気を使ってね」と話すめぐみさんから、べっ甲製の櫛をプレゼントされた。その日は滋さんの45才の誕生日。娘の成長に目を細めながら、その日の夜はいつもよりもビールが進んだ。

 翌15日。“その日”は突然訪れる。中学1年生のめぐみさんは、バドミントン部の部活を終えると帰路につく。時刻は18時半。秋の陽は落ちるのが早い。友達とおしゃべりをしながら校門を出て、手を振って別れ、自宅まであと50m。叫べば家族に声が届きそうなその距離で、最後の角を曲がれずに北朝鮮の工作員に拉致された。この日から43年間、両親は娘の帰りを待ち続けてきた。

 当初、警察は国内の誘拐事件として捜査を進めた。

「滋さんも必死に捜しました。美術展で女性が描かれた絵にめぐみさんの面影を感じ、『このモデルはめぐみでは』と作者を訪ねていったこともあったほどです」(社会部記者)

 1997年に北朝鮮による拉致の可能性が浮上し、拉致被害者の「家族会」を立ち上げて滋さんが代表となった。以後、滋さんは拉致被害者家族のシンボルとして東奔西走した。

「滋さんのスケジュール帳は常に真っ黒でした。『5分でもいいから』と、全国どこへでも出かけていって、拉致の実態を語るようになったからです。その回数は1400回を超えています」(北朝鮮による拉致被害者を救う会会長の西岡力氏)

 2002年に、小泉純一郎首相(当時)が初訪朝。北朝鮮側は13人の拉致の事実を認めるも、めぐみさんについてはすでに死亡していると通告。北朝鮮側は“遺骨”まで提出してきたが、後に死亡診断書は偽造されたものだと認め、遺骨はDNA鑑定で別人のものと判断された。しかしいまに至るまで、めぐみさんの帰国への動きはない。

 普通に考えれば、怒りと哀しみに感情が支配されるような状況だが、滋さんは、努めて明るく振る舞った。

 2002年10月、拉致被害者のうち、曽我ひとみさんら5人が日本に帰国した。羽田空港に到着したチャーター機から降りてくる中にめぐみさんの姿はない。それでも、滋さんはカメラマン役を自ら買って出て、一人ひとりに「おかえりなさい」と笑顔で声をかけてシャッターを切った。

関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン