現場では監督や共演者と意見を交わし、入念な打ち合わせをする
「この歳になると、普通は失敗する機会も減ってくるんだけど、それは挑戦をしていないからでもある。俺はこれまでにもたくさん失敗をしてきたし、これからもそれでいいと思っているんです。さすがに骨折とかになると、最近は昔よりも治りがだいぶ遅くなってきたからマズいんだけど(笑い)」
張り詰めた日々を生きるなかで、吉川が大事にしているのは自宅の家庭菜園で過ごす時間だという。
「土に触れるといい気分転換になってリラックスできるんです。自宅のベランダで野菜や、シークヮサー、パッションフルーツを育てていますよ」
◆賢くはなりたくない
1990年代は音楽活動に専念すべく休止していた俳優業も30代後半あたりから次第に再開。近年ではドラマ『下町ロケット』(TBS系)での好演が話題に。スーツと「演説」がビシッと決まる財前部長の“正体”が、昭和から平成、さらに令和でも第一線で活躍を続けるロックミュージシャンだと知り、驚いた若い世代もいるとか。一方、デビュー当時からのファンで、吉川を追いかけながら人生を歩んできた世代は、その年齢の重ね方に魅了されている。
「自分自身の中身は子供の頃から変わってないんですよ。ずっと『あまのじゃく』で、ほかの人が行くのと違う道を行きたがる(笑い)。でも、実際は『変わらない』のもけっこう難しいのかもしれませんね。大人になっていく過程で、どうしても社会によって変えられてしまうから。『世の中とは、こういうもんだよ』って。その意味では、俺は『変えられてたまるか』と、ずっと思ってた(笑い)。変わることが大人になる、賢くなるということなら、俺は賢くなりたくない。相手が誰であろうと、おかしいことはおかしいと、いつでも言える自分でありたいんです」
ミュージシャンとして、俳優として、唯一無二の個性。それは、このような信念から生まれたものではないだろうか。
そんな吉川が目指す境地は──。
「最近よく考えているのは、表現においてどれだけ余計なものを削ぎ落とせるかということ。芝居で言えば、例えば由利麟太郎という役では、彼の人間性や心情をセリフじゃない部分で醸していきたいと思っている。横顔だったり、後ろ姿だったり。音楽の方も…楽曲作りも、歌も、演奏も、どれだけシンプルに表現できるか、というのがテーマになりつつあるんです。いろいろな飾りを取っ払ってシンプルにしていくことって怖いんだけど、それでも敢えて、できるだけ剝き出しにしていきたい。それは結局、自分の“生きざま”そのものを見せていくってことなんでしょうね」