教育について240分にわたる激論をかわした西郷孝彦さんと前川喜平さん(撮影/浅野剛)
西郷:この話を知ったとき、私も憤慨しました。星野君は、日本を出て犠牲バントのサインなど出さないメジャーリーグを目指した方がいい。
でももし私がこの教材で道徳の授業をするなら、「教科書だからといって、正しいことが書いてあるとは限らない。監督は正しいのか、みんなで考えよう」と生徒に問います。
前川:なるほど、そういう教科書の使い方もありますね。私は「中断読み」がいいと思います。バントのサインが出たけど、星野君は打てそうな気がした。「君ならどうする?」と。別のシーンでは、星野君のおかげで勝ったのに、監督は星野君を大会に出場させなかった。「それはどう思う?」と。
西郷:私も女子ソフトボール部の顧問をやっていましたが、部員は私の出したサインに納得がいかないと、「なんでかな」と首を傾げて従いませんでした(笑い)。私は、それでいいと思っています。なぜなら、生徒に任せていた方が、案外強いチームができたからです。教育における主人公は、子供です。子供が自分で考えて決めればいい。私たちはただ信じてあげればいいのです。
前川:ますます桜丘中学校のような学校が増えてほしいと、強く願わずにいられません。
──初対面にもかかわらず、対談は白熱すること4時間を超えていた。教育が抱える問題点を見つめる視点は違っても、“子供が主役”という大前提は、等しく揺るぎない。
【プロフィール】
◆前川喜平/東京大学法学部卒業後、旧文部省入省。2016年文部科学事務次官となる。2017年1月、文科省の天下り斡旋問題で引責辞任。加計学園の獣医学部新設の問題では、「安倍総理のご意向があった」と証言。子供の貧困や虐待を扱った映画『子どもたちをよろしく』を元文科官僚の寺脇研さんとともに企画。現在は夜間中学での指導にも注力する。
◆西郷孝彦/上智大学理工学部を卒業後、都の教員に。2010年に世田谷区立桜丘中学校長に就任し、インクルーシブ教育の導入や校則や定期テスト等の廃止、個性を伸ばす教育を推進。2020年3月に退職。著書に『校則なくした中学校 たったひとつの校長ルール』、新書『「過干渉」をやめたら子どもは伸びる』(ともに小学館)がある。
※女性セブン2020年7月23日号