元文科省事務次官の前川喜平さん(撮影/浅野剛)

西郷:私も朝礼で信号の話をしたことがあります。前川さんの例と反対に、青信号なら必ず横断歩道を渡っていいかといったら、それは違う。信号無視の車が飛び込んでくるかもしれないからです。「赤なら止まれ」「青なら渡れ」ではなく、渡るかどうかは、自分で判断しなければ、と話しました。

 いまの日本は、同調圧力が強まっています。コロナ自粛下の県外ナンバー狩りや自粛警察がその最たる例でしょう。前川さんは同調圧力に屈せず、加計学園問題が「安倍総理のご意向」と明かしたことで、出会い系バーに通っていたと新聞に書き立てられましたよね。

前川:ドキュメント番組で、貧困に苦しむ女性たちが出会い系バーに出入りしていることを知って、実態を知りたいと思って行ったのですが。そこに集うことで食事を得たり、夜過ごす場所を確保する人が確実にいる。例えば通信教育の問題点など、そこで知り得た情報をもとに、制度の見直しに役立ちました。やましいことはなく、同僚にもそこで見知ったことを話していました。ですから、いまも堂々と口にできます。

西郷:私も命の危険があると思われる不登校の女子生徒に最後の連絡手段としてLINEを使っていたのを教育委員会に密告され、「不適切な関係」を疑われたことがありました。私の学校改革は、ある意味、それまでの常識であったことを否定することになりますから、面白くないと思っていた人もいたのでしょう。そんなことのために、大切な子供の命を危険に晒させてしまいました。

 実際には、多くの生徒に私の連絡先を教えていましたし、家庭や学校生活に問題を抱えて悩んでいる子の最後のセーフティーネットになることの何がいけないのか、と思います。まさに同調圧力です。

前川:ところで安倍政権は2018年度から正式に道徳を教科化しました。教科書の内容を見ると、従順な子供を育成しようとしているように思います。

 小学校の道徳の教科書に載っている『星野君の二塁打』をご存じですか? 野球の予選で、星野君は監督のバントのサインに従わず、二塁打を放ちます。おかげでチームは勝利するも、星野君は“自己犠牲”を怠ったことを理由に、本大会への出場メンバーから外される。おのれを殺して、組織のために仕える“滅私奉公”を強いるのは、戦時中の特攻隊と同じです。

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