私たち角打ち取材班は、渡辺会長が仲間と集うこの日を毎年撮影してきた。コラージュした笑顔の面々は、2014年から2019年にかけて取材した各地の7月11日の風景だ。
例年この日は、客らがほろ酔いで幸せ顔になる宵の口、「3・2・1」とカウントダウンがはじまり、夜7時11分ちょうどに「カンパーイ! 角打ちの日バンザーイ!」と乾杯し、角打ち好きたちの笑顔が弾けていた。
渡邉会長にとっても、角打ちの日はいつにも増して心が躍る。気のおけない友と語らい、大好きな角打ちで至福のときを過ごしてきたという。そんな渡辺会長と角打ちの出会いは、いまから60年前に遡る。
「小学生のころ、雨が降ると、酒屋で飲んでいるおやじを傘持って迎えに行ってね、子供ながら立って飲むおやじを見上げてなんて楽しそうなんだろうって思った。店主に駄菓子もらえたのも嬉しくてね、あれが私の角打ちの原点。
それから安月給のサラリーマン時代の昭和40年代、会社の寮の近くにあった角打ちは、女将がつけで飲ませてくれて、給料日にお金持っていったもんです。店が閉まっている時間でもブザーを押すと女将が出てきてくれて、寮の先輩に頼まれた酒をよく買いに行きました」
半世紀以上も角打ちと共にあった暮らしを振り返り、「酒屋で気楽に飲む、角打ちという文化が、私の中に沁み込んでいるんでしょうね。かつて店があった通りを歩くと心がじんとしますよ。ときには酔っ払い過ぎたこともあったけどね」と笑う。
そして今年も必ずこの記念日を仲間たちと祝いたいと明るく前を向いている。
「先日は大好きな酒屋、そして酒蔵さんと我々愛好家を繋いでリモート角打ちしたんです。いまこそ酒蔵さんや角打ちを応援しなきゃと思いましてね。新しい様式の角打ちは、こういうのもありだなぁと…」
2020年の角打ちの日は、1つの店に集まるのではなく、おのおの好きな場所でこの日を祝うことにしたのだという。
「集まらなくたって繋がっているんですよ。こんな時代だから、我々も酒屋さんもみんな元気になるようにって願いを込めて、どこに居ても今年も皆で7時11分に乾杯します」