体位変換装置を使い、患者を180度回転させながら乳房を10台のカメラで撮影(写真/新日本科学提供)
「切らない」治療で乳がんの検診率を上げたい
陽子線治療にも、デメリットがある。それは費用だ。現在、陽子線治療で健康保険が適用されるのは前立腺がん、小児がん、頭頸部悪性腫瘍、骨軟部悪性腫瘍の4種。前立腺がんは160万円、ほか3種は約240万円のそれぞれ1~3割が自己負担分で、高額療養費制度も利用可能。
そのほかは保険適用外だが、厚労省より先進医療と定められ、民間保険会社の特約でカバーできるがんもある。しかし、乳がんのように治療実績が少ないがんは自由診療となるため、314万円の陽子線治療費は全額自己負担となる。
「早期乳がんの陽子線治療ができるのは世界でも当センターだけです。乳がん治療が保険適用になるのはまだまだ先のことでしょう。医療費が高額なのはデメリットといえます。私たちが乳がん治療を目指したのは、1つは選択肢を増やすためです。乳がんと同じようにホルモンが関係する前立腺がんは、手術のほかに放射線治療も陽子線、重粒子線などの選択肢があり、抗がん剤治療も選べます。ですが、いま乳がんは手術で切る方法しかありません。
日本の乳がん検診率はまだまだ低い。乳がん検診を受けていない女性たちに話を聞くと、見つかっても切るしかないから検診を受けたくないというかたが多いようです。つまり、切らない治療が選択できることによって、乳がんの検診率が上がり、がんを早期に見つけることによって、乳がんで失う多くの命を救えるかもしれないのです」(荻野さん)
乳がんと診断された前出の原田さんは治療を終えてから4年が経った。スラリと引き締まったスタイルと若々しい声は、趣味が高じてインストラクターをしているヨガの成果だとうれしそうに笑う。
「こうしてヨガを続けていられるのは切らない治療のおかげです。手術の場合は痛みも傷痕も大きなストレスになります。陽子線治療は治療中はもちろん、なにより術後の社会復帰の早さ、楽さは手術とは比べものになりません。体にメスを入れずにできる治療法をもっと多くの人が知り、自由に選べるようになってほしいと強く願っています」
※女性セブン2020年8月13日号