メディポリス国際陽子線治療センターの荻野尚医師(撮影/関谷知幸)

 乳がんも、5年前までは陽子線治療ができないといわれていた部位だった。柔らかな乳房は呼吸をするたびに動き、ピンポイントで照射できない。陽子線治療に携わる世界中の医師が乳がんは無理だと諦めていたという。

 そこに挑戦したのが同センター。開設当初から乳がんの陽子線治療を目標に掲げ、その開発を担ったのが同センター診療部長で、世界で初めて早期乳がんに対する陽子線治療を行った有村健医師だ。

「多くの医師から“できるはずがない”と言われましたし、ぼく自身も難しいだろうという思いがありました。でもここで投げ出してしまえば一歩も進まない。だったらいまの技術でどこまでやれるかやってみよう、という思いで取り組んだんです」

 病巣のみをピンポイントで狙うためには、乳房の精度の高い固定が絶対条件だった。

「石膏や接着剤など速乾で固まるものや、熱で変形して冷ますと固まる器具で乳房の固定を試しましたが思うようにいかない。さらに、固定させるときの向きも、仰向けだと乳房が横に流れてしまい、放射線の照射範囲に肺や心臓が近づき、障害のリスクが高まる。逆にうつ伏せになると肺や心臓からは離れますが、患部が見えづらく、動きを追えないデメリットがある。

 試行錯誤するうちに、上か下かの選択ではなく、その2つのいいとこ取りで、下を向いて乳房が胸壁から離れた状態で固定。その状態のまま、患者さんを回転させて仰向けにすれば、呼吸の動きも見ながら照射できるんじゃないかと考えたんです」(有村さん)

 そうして5年がかりでがんの位置に応じて最適な方向から陽子線が照射される360度回転装置と、3Dプリンターによる乳房保持カップの開発に成功。早期乳がんの陽子線治療法を確立した。

 2015年、世界で初めて乳がんの陽子線治療が行われ、以来、臨床試験で有効性と安全性が認められ、現在は第2段階が審議中だ。そしていま、自由診療での早期乳がんや術後照射の治療が可能になった。

 有村さんが特に自信を持つのは『術後照射』だ。手術で切除しきれずに残ったがんや、再発防止のための放射線治療のことを指す。

「X線の場合は肺や心臓にも照射されるため、左胸の乳がんの人は右の人に比べて心臓の有病率が約3倍に跳ね上がることが報告されており、もともと肺や心臓に疾患があるかたは術後照射はできません。その点、陽子線は肺や心臓の手前で止めて、患部だけを狙い撃ちできるのです」

 陽子線による術後照射なら、隣の臓器の副作用を恐れることなく、がんを死滅させられる。

関連キーワード

関連記事

トピックス

10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
ミセス・若井(左、Xより)との“通い愛”を報じられたNiziUのNINA(右、Instagramより)
《ミセス若井と“通い愛”》「嫌なことや、聞きたくないことも入ってきた」NiziU・NINAが涙ながらに吐露した“苦悩”、前向きに披露した「きっかけになったギター演奏」
NEWSポストセブン
「ラオ・シルク・レジデンス」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
「華やかさと品の良さが絶妙」愛子さま、淡いラベンダーのワンピにピンクのボレロでフェミニンなコーデ
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン