滑皮は「広域組織を持つ象徴的なヤクザとして描かれている」(鈴木氏)という。暴力や脅し、そして相手に自らの力を示すための「見栄」も張る。さまざまなキャラも絶賛する愛沢の絶品ラーメンを食べても「普通じゃねえか」(第5話)と突き放し、屋台ではジャケットに隣席者からスープを付けられても堂々と振舞う。そうした見栄と食事にまつわる知られざるヤクザの食事事情を、鈴木氏が話す。
「一般的にヤクザは値の張るものが好きなので、なんでも一流の店にいきたがります。寿司、焼き肉、てっちりなど、なにを食べる時でも高級志向です。一方で山口組の直系組長たちは、かつて神戸市灘区の山口組総本部の近くにあったうどん屋で、名物の“上カレーうどん”をよく食べていた。“上”だからといって格段に美味しいというわけでもないのですが、特別なメニューを注文できているという『見栄』を張れたため、大人気メニューだったんです。
また、常連のラーメン店で、『具をいっぱい載せてくれ』とか『チャーシューを厚切りにりにしろ』、さらには『超アツアツでな』とオーダーするヤクザもいました。もともとアツアツで出てくるけれど、何か特別な注文を通したいんですね」(鈴木氏)
支払いの際には、いかにも“らしい”仕草が見られると鈴木氏は言う。
「組長たちの中には、財布に入っている“見せ金”、つまり大量に入っているお札をわざわざ見せながら、1万円札でラーメン代を払う人がいます。小銭を持っていても、毎回1万円のピン札を出してたこ焼きを買う山口組直参(直系組長)もいる。やはり金は強いんです。カタギの見る目が変わるんでしょう。こうしたヤクザの所作は、いわば“組長仕草”ですね」
『らーめん滑皮さん』でも現実でも、食事にまつわるヤクザの知られざる世界は面白い。