俳優としてのキャリアも、五十年以上になった。
「親父は役者を六十年やってきて納得いった芝居は三つくらいしかないと言っていました。それでも、一つ一つを自分の役として懸命にやっていました。
その根底には『自分を表現する仕事で生きていたい』というのがあったんだと思います。僕もそうです。様々な仕事をしてきましたが、納得できるまでは、まだ時間がかかりそうです。
僕はスペシャルな人間ではありません。それがなぜこんなに長くやれたかというと、結局は『好き』ということなんです。
たくさん素敵な役者はいました。でも、やめちゃった人、消えちゃった人はいます。そうした中で僕が続けられたのは『好き』だったから。だから、この仕事にこだわれるんです。
他に逃げ道は作りませんでした。この道で絶対に食っていく─と思ってやってきましたから。『好きになれる』ということが、僕にとっての一番の才能なんじゃないですかね。
とりあえずそんなことをしながら右往左往してきました。いつ終わりが来るのか分からない人生ですからね(笑)。だったらしつこく役者として生きていきたいです」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
■撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2020年9月11日号