映画『糸』の完成報告会に登場した小松菜奈
2人が初共演を果たした『ディストラクション・ベイビーズ』では、菅田は暴力の魅力に取り憑かれた高校生に扮し、小松はその餌食ともなるキャバ嬢を演じた。驚かされたのは、殴る蹴るに罵詈雑言を浴びせ合うといった、目を背けたくなるような2人の壮絶なぶつかり合いだ。攻撃的なエネルギーを互いに発散させ合う姿は、とても初共演とは思えない凄みがあったし、役者としての経験年数が決して長かったとは言えないなかで、2人のポテンシャルを強烈に感じた。
だが、さらに驚いたのは、その半年後に公開された『溺れるナイフ』で、2人がラブストーリーを演じたこと。菅田は気まぐれで傍若無人な少年を演じ、小松はそんな彼に惹かれていく少女を演じたのだが、前作とは全く違う、初々しく未熟で、それでいて積極的な少年少女の恋愛模様には、前作とは180度違う個性を感じた。性質の全く異なるストーリーや役柄を経験したことで、2人の関係性や距離の近さは強固なものとなったのではないだろうか。
それから約4年経ち、今作で3度目の共演となった2人。子供の恋から大人の恋まで表現するという、“王道”な恋愛物語に挑戦するには、ベストな年齢やタイミングだったように思う。1作目では暴力を振るい合い、2作目では幼い恋心を抱き合い、3作目にしてようやく年相応の恋模様を展開させた。2人が積み上げてきたキャリアはもちろんだが、何より過去2度の共演があったからこその2人にしか作れない空気感があり、それがリアリティを持って観客の胸を打ったのだろう。そこには固い絆のような、信頼関係があるのではないだろうか。
メガホンを取った瀬々敬久監督(60才)は2人の印象について、「すごくツーカーの仲だと感じました。(中略)ただ、芝居が始まると、馴れ合いにならないように2人はやっていました」と述べた。菅田も「(この作品は、)漣の幼少期の時の思い出ありきのお芝居なんです。だから『はじめまして』の人じゃなくて良かった」と話し、小松も「いろいろな作品を経て私たちがどう変化していったのか、『糸』をどう見せるのかというのが面白さでもありました」と語った。
【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。
中島みゆきのヒット曲から着想された『糸』