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「シブラク」キュレーターが綴った柳家喜多八と立川左談次の絆

柳家喜多八と立川左談次が紡いだ想いとは(イラスト/三遊亭兼好)

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、『これやこの サンキュータツオ随筆集』(角川学芸出版)から、柳家喜多八と立川左談次とシブラクについてお届けする。

 * * *
 この夏、学者芸人サンキュータツオ氏の随筆集が角川書店から出版された。タイトルは『これやこの』。これは、冒頭105ページに及ぶ長い随筆のタイトルでもある。

 著者は2014年11月から渋谷のユーロスペースで始まった若者向けの落語会「渋谷らくご」(通称「シブラク」)のキュレーターとしてすべての番組を企画し、観客に対して毎回「出演者の紹介」と「聴きどころのアピール」を行なっている。「落語初心者向け」を標榜した「シブラク」の成功はこのキュレーターの存在なくしてはあり得なかった。『これやこの』は、その「シブラク」を支え、亡くなる直前まで出演し続けた二人の落語家、柳家喜多八と立川左談次の思い出を綴った随筆だ。

 喜多八は「シブラク」を愛していた。博品館劇場での定例独演会で喜多八が「あそこの客は初々しくていい。あんたらとは違うんだよ」と笑顔で言うのを聞いたこともある。

 円熟期を迎えた喜多八を病魔が襲った。癌である。ある日、喜多八は「シブラク」の楽屋に杖をついて現われた。そこからは毎月、命を削るような高座だったと著者は言う。そんな喜多八のために、キャリアが近く気心の知れた、だが長年高座を共にしていない落語家を、同じ番組に顔付けしようと決めた。立川左談次である。2015年11月、初めて「シブラク」の楽屋で顔を合わせた二人のエピソードはあまりに素敵だ。

 2016年5月17日、喜多八永眠。享年66。4日後、左談次はツイッターで蝉丸の「これやこの行くも帰るも別れては しるもしらぬも逢坂の関」を引用し、続けてこう書いた。「そんな事は覚悟の前だよな喜多八」 その3か月後、今度は左談次が癌闘病中であることをツイッターで告白することになる。

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