まさにペンは剣より強かった(EPA=時事)

 トランプ氏はホワイトハウスのイベントで同書の内容を一部認めた。「私はこの国のチアリーダーだ。国を愛していて、国民を怖がらせたくない。パニックを起こしたくないし、この国や世界を混乱状態にすることは望まない。我々は自信と強さを示したい」。この発言で批判を止めることはできないだろう。

 それにしても、なぜトランプ氏は、ウッドワード氏にここまで話したのだろうか。これは筆者の想像だが、トランプ氏の性格から考えると、著名ジャーナリストであるウッドワード氏に自分の能力や実績、情報力を誇り、うまく丸め込んでPRに利用してやろうとしたのだろう。だが、ウッドワード氏のほうがうわてだった。逆に見事に乗せられて、言わなくてよいことまで告白してしまったのではないか。

 そして、アメリカ国民や世論も甘くはないことを、トランプ氏は知らねばならない。同書はそのタイトル通り、アメリカ人の怒りに火をつけた。ウッドワード氏の告発を知った共和党支持者からは、「トランプ氏には何か魂胆があったのではないか。例えば、(医療を受けられない貧しい人が多い)黒人とラテン系の人口を減らそうとしたのではないか」といった声まで出ている。

 9月15日の発売前から同書は大きなインパクトを与え、すでに大統領選挙を動かし始めている。同書の内容が報じられてからわずか2日間で、アメリカ全土の平均支持率は、バイデン氏の7ポイントリードから10ポイントリードに広がった。すでに始まった郵便投票では、支持率が7:3まで開いているという調査結果もある。この大きな流れを止められなければ、トランプ氏は11月の投票日を前に敗北を認めなければならなくなるかもしれない。

 最初のテレビ討論は9月29日に行われるが、この1回限りになると予想する人も増えている。そこでトランプ氏が効果的に反論できなければ、それで大統領選挙はケリがつく、というのである。一冊の本が、一気に大統領選挙の緊張感を高めている。

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