「渡辺は、満蒙の問題については自分の周囲は関心が薄く、また言及があっても『不況なので戦争になるのは困る』という意見だったと紹介しています。要するに、当時陸軍にとって重大な懸案だったはずの満蒙問題が、一般の市民の間ではあまり真剣に取り上げられておらず、戦争への忌避感が非常に高かったということです。渡辺の周囲の『狭い範囲』とはいえ、そうした市井の意見を紹介しているのは、いかにも渡辺らしい姿勢だと思います」
満州事変の勃発が1週間後に迫るなか、東京で行なわれた本講演では渡辺の「非戦論」がさらに展開されてゆくことになるが、それについては別稿で詳述する。
●参考資料/岩井秀一郎『渡辺錠太郎伝 二・二六事件で暗殺された「学者将軍」の非戦思想』(小学館)、岩倉渡邉大将顕彰会『『郷土の偉人 渡邉錠太郎』(愛北信用金庫編・発行)