『半沢直樹』には歌舞伎役者が何人も出ているためか、「歌舞伎的なドラマ」とも称されますが、顔芸や誇張された演技、言葉遊びといった要素だけではありません。「社会風刺」という点においても、歌舞伎に通じる要素があります。
江戸時代の歌舞伎はご存じのように、実際の事件や出来事を題材に芝居を仕立てているものもあり、しかし直接的な幕府・権力批判は禁じられていた。だから、わざと設定や登場人物を違うものに置き換えて、お咎めをうまく免れました。聴衆は芝居を見ればすぐに「あの事件のパロディだね」と気付き、権力をバカにしてうっぷんを晴らしたり不平不満を発散し溜飲を下げることができた。
このドラマに描かれる政界のドンやら白い服の大臣、業界の様子を見ていると「想像させて、批判する」という歌舞伎の伝統的な遊び方を受け継いでいるようです。
加えて、冒頭に挙げたスピード感にも日本の伝統芸能の中にある型を継承する工夫が見られます。
能の舞台などでは「序破急」、「序」=ゆったりとした導入があってから、「破」=展開し、「急」=躍動的に終結へ向かって一気に走る、という構造があります。能はゆっくりとしたテンポの舞台芸能だと思い込んでいる人も多いと思いますが、実は「急」の舞の躍動感といったら凄い。前半の倍くらいのスピードで縦刻みのリズムによって畳みかけてくるので、聴衆はあっけにとられぐいぐいと引き込まれ、気付くと終幕、という構造がしばしば見られるのです。
そう、『半沢直樹』のスピード展開に通じます。最新のテレビドラマが日本の伝統的娯楽の型を上手に活用しているとすれば、実に新鮮。「伝統芸に裏打ちされた独自のドラマ形式」を生み出した功績は大きい、と言えるのかもしれません。