演説の盛り上げ方ではバイデン氏を圧倒(AFP=時事)

 それでもトランプ氏の演説は聴衆を引き付ける力がある。原稿もなく、プロンプターも使わない。演説の前に大事な数字だけは頭に入れ、それに簡単な形容詞を加え、独自の論理を構成し、具体的に話す言葉は壇上で自然に浮かんでくるようだ。いわばナチュラルスピーカーなのである。観衆が何を聞きたいか瞬時につかみ、実践できる。政治エンターテイナーとして天才的な俳優であることは間違いない。

 ただし、話の中身はいつも危うい。日本に関することでいえば、アメリカが明らかに損をするTPP脱退などを簡単に決め、自分にしかできなかった決断だと自画自賛する。イスラム過激派のリーダーを殺したと誇る。それがアメリカにどんな影響をもたらすか、新たな脅威を生むかは、演説の中では全く配慮されていないようだ。事実をベースに語り、自分が話す内容を正確に理解するということは苦手である。結果として嘘をつくことにもなる。

 それでも、ライバルであるバイデン氏よりも魅力的に映る。バイデン氏はまじめな性格から政策をていねいに語るが、あまりにも抽象的で聴衆には響かない。あとは家族の話をするのが定番で、友人の話や自分の人生も語る。戦いのさなかにこれだけでは、トランプ氏に見劣りするのは当たり前である。バイデン氏はもっと必死に、鬼にならねばならない。

 自分の支持者を効率的に喜ばせる術を知っているトランプ氏は、「公約」したとおりに最高裁判事の後任指名を急ぐだろう。思いがけなく浮上した前哨戦で、バイデン氏の旗色は極めて悪い。それが何年にもわたってアメリカに禍根を残す可能性も高まっている。

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