中国ではその経歴に驚きの声が上がった(共同通信社)
中国の著名経済メディア『第一財経』も、「農民の息子から日本の新首相へ、菅義偉は安倍の遺産を継承するのか?それとも新路線か」と題した記事を掲載した。ここでも切り口は農民だ。デジタル庁や社会保険改革、携帯電話料金引き下げなどの菅新首相の新政策を紹介している。ただ、いずれも日本の未来像を描くグランドデザインとは言い難い。そのため、長期的視野に立った改革プランを打ち出せるかどうかは、新型コロナウイルスをいかに早く収束できるかにかかっている、との分析だ。一方、中国国民の関心が最も高い外交については、菅新首相は外交面についてほとんど独自色が見られないため、「安倍政権の延長だよね、多分」以上の評価はほとんど見られなかった。
もっとも安倍政権は中盤以降、中国との関係改善を重ねてきた。新型コロナウイルスの流行がなければ、今春に習近平国家主席の国賓訪問が実現し、今頃は日中の「蜜月」が演出されていた可能性もある。日中関係の改善が前に進まない一方で、米中対立の激化が続くなか、安倍外交を継続しようにも、どこまで継続できるのかは未知数だ。
だが、米国の圧力が強まるなか、中国共産党は関係改善に期待を寄せているようだ。習近平国家主席、李克強首相は9月16日、菅新首相に祝電を送り、日中関係のさらなる発展に期待を示している。新首相の誕生に祝電を送るのは当たり前のようにも思えるが、中国政治ウォッチャーの水彩画さん(ペンネーム)は、「安倍政権が長期間続いたのでみんな忘れているところがありますが、日中関係がぎくしゃくした時期が続いていたこともあって、ここ数代の首相誕生では祝電は見送られてきました。中国の総書記と総理が揃って日本の総理に祝電を出すのは、2000年の森喜朗元首相の就任以来となるはずです」と指摘する。
20年ぶりの祝電に込められた中国の秋波に、菅義偉新首相はどう答えるのだろうか。
【高口康太】
ジャーナリスト。翻訳家。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国の政治、社会、文化など幅広い分野で取材を行う。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『現代中国経営者列伝』(星海社新書)など。