アメリカでは中絶反対運動も盛ん(EPA=時事)

 バレット判事は、雑誌記事で「命は受胎の時に始まる」と発言したことがあり、人工中絶に反対の立場をとる。アメリカでは、1973年のいわゆる「ロー対ウェイド判決」によって中絶が女性の権利と認められた(原告女性と、対抗した検事の名を取ってそう呼ばれている)。バレット氏は、トランプ政権の移民規制や銃規制緩和にも賛同している。

 特に中絶反対の立場は多くの女性から反感を買っている。ある宣伝会社勤務の女性はバレット氏への嫌悪感を隠さない。「あんな保守的な女性を最高裁の判事にしたら、女性に対する偏見がますます悪化する。女性の解放を考えなければいけない時代に人工中絶の是非で国を二分するなどナンセンスだ。最高裁判事は、ものの価値を正しく理解し、様々な角度から深く、鋭く検証して、人間と社会のために判決を下す人でなければならないと思う。情熱をもって世界の進歩に取り組む人に判事になってもらいたい」。

 バレット氏は、2017年にトランプ氏によって今の地位に指名され、その時も上院で民主党から激しく反対された人物だ(共和党多数により55対43で承認)。いわばトランプ氏の秘蔵っ子である。夫は元連邦検事で、2人の養子を含めて7人の子供がおり、夫妻の間に生まれた一番下の子供はダウン症だと公表している。そうしたプライベートな経歴も、困難な生活から努力して立ち上がったロールモデルを好む共和党には人気なのである。

 筆者は、トランプ氏が最高裁で大統領選挙の結果をひっくり返そうとしているとまでは思っていないが、急速に再選から遠ざかっている現状を打破する作戦ではあると思う。中絶問題は国中を紛糾させる。大失敗のコロナ対策や外交から国民の目をそらすには絶好のインパクトある話題である。

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