国内

満洲事変の勃発前夜 「非戦論」説いた陸軍大将の対中国観

満州事変で瀋陽に侵攻した日本軍の装甲車部隊(中国通信/時事通信フォト)

 この9月で勃発から90年目を迎える満洲事変(柳条湖事件)。この事変をきっかけに、日本は日中戦争、太平洋戦争へと突き進んでいくことになる。事変勃発の1週間前、昭和6(1931)年9月11日に東京で行なわれた講演会で、陸軍航空本部長の渡辺錠太郎大将は、戦争というものの核心について語っていた。

「いま戦争になったら困る」という一般市民の声を紹介した後、渡辺は第一次世界大戦後の欧州を視察した自身の知見をもとに、敗戦国ばかりでなく、戦勝国においても戦争のために悲惨な状況に陥っていたことを紹介する。

 それでも、「戦争というものはいかに人がなくしようと思ってもなくなるものではない」として、戦争の原因について考えていく(*注)。

〈しからば、その戦争は何によって起こるかと申しますると、いろいろの原因はござりますが、近代の戦争において一番重要なる原因は経済上の関係で、第二番には民族間の反感、すなわち民族間の感情の相違、この二つが一番主なるものと見られております。

 第一の経済上の関係につきましては、世界に国をなしておるものが経済上の平均を得ておらぬのが原因でございます。

 この点から申しますると、わが日本のごときは国際間の無産者[生産手段を持っていない者]でございます。土地が狭く、人口が多く、食料が不足し、原料が乏しい。1平方キロメートル[あたり]の住民[人口]を比較してみますると、わが日本では165人を算しまするのに、アメリカ合衆国のごときはその十分の一にも達しない、わずかに16人。イギリスの領土のオーストラリアのごときは、わずかに1人といわれております。

 すなわち、この人口問題、食料問題、原料問題、もしくはその産物の販路、すなわち市場の争奪ということが戦争の一原因となりまして、近時における戦争の原因はほとんどこれがみな重要なる部分を占めております。

 例えば、日露戦争のごときも、いろいろの説明がその原因についてせられまするが、最も重要なるものはわが国の開国進取、海外進出、経済上の原因が重きをなしておるともいわれます。また、ヨーロッパ大戦[第一次世界大戦]のごときも、イギリスとドイツの経済上の角逐(かくちく)が、ついにこの大戦を起こしたともいわれております〉

【*注/渡辺の講演については、読みやすさを考慮して、旧漢字・旧かな遣いは現行のものに、また一部の漢字をひらがなに改めました。行換えのほか、句読点についても一部加除したりしています。[   ]は引用者注。出典は「渡邊大将講演(現今の情勢に処する吾人の覚悟と準備)」麻布連隊区将校団(防衛省防衛研究所所蔵史料)】

関連キーワード

関連記事

トピックス

和久井被告が法廷で“ブチギレ罵声”
【懲役15年】「ぶん殴ってでも返金させる」「そんなに刺した感触もなかった…」キャバクラ店経営女性をメッタ刺しにした和久井学被告、法廷で「後悔の念」見せず【新宿タワマン殺人・判決】
NEWSポストセブン
初の海外公務を行う予定の愛子さま(写真/共同通信社 )
愛子さま、初の海外公務で11月にラオスへ、王室文化が浸透しているヨーロッパ諸国ではなく、アジアの内陸国が選ばれた理由 雅子さまにも通じる国際貢献への思い 
女性セブン
几帳面な字で獄中での生活や宇都宮氏への感謝を綴った、りりちゃんからの手紙
《深層レポート》「私人間やめたい」頂き女子りりちゃん、獄中からの手紙 足しげく面会に通う母親が明かした現在の様子
女性セブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
一般家庭の洗濯物を勝手に撮影しSNSにアップする事例が散見されている(画像はイメージです)
干してある下着を勝手に撮影するSNSアカウントに批判殺到…弁護士は「プライバシー権侵害となる可能性」と指摘
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン