シニアの趣味としても人気の川柳。五七五の17音で詠むが、俳句のように季語などのお堅い約束事はなく、身近な風景や人間模様を自分らしい口語で詠む。題材は目の前だけでなく、積み重ねてきた思い出からも。詠む眼差しで見れば、見慣れた風景も古い記憶も鮮やかに輝くという。高齢者への指南も行っている川柳作家のやすみりえさんに川柳の極意と魅力を聞いた。
川柳は江戸時代からコンテスト形式だった
いまや企業などの公募川柳も花盛り。より切実な世相や人情を反映した入選作が共感を呼び、和ませている。
「川柳は江戸時代中期に始まったときから、いまのようなコンテスト形式でした。出されたお題に庶民が投句し、入選者には米や反物などの賞品付き。おおいに盛り上がったようです」とやすみさん。
生みの親は江戸浅草の名主、柄井川柳。当初から“穿ち・おかしみ・軽み”の3要素を盛り込むのが特徴で、ものの本質を巧みにとらえて、軽妙な表現が評価された。柄井川柳が催す興行には小粋な江戸っ子たちが頭をひねり、こぞって投句。いつの時代も変わらない人の心への関心が、300年近く続く川柳の隆盛を後押ししているとやすみさんは言う。
「令和のいまは悲哀や自虐、駄じゃれのような言葉遊びの句が多い印象があります。新型コロナの句も多いですね。心に留まったある高齢のかたの川柳、《歩きます 亡夫の好んだ杖ついて》(82才女性)は、なんとも切ないけれど、多くの高齢者の本音を代弁し、共感されていると思います。見知らぬ人の句で共感したり励まされたりするのも、人生を詠む川柳の魅力です」
自分の心と向き合うのが心地いい
やすみさんの作品は恋愛がテーマ。20代半ばで出会った川柳作家・庄司登美子さんの影響が大きいという。
〈追伸に女ごころのありったけ〉(句集『花酔い』より)
「これを詠まれたときの庄司先生は60代。40の年の差を超えて、共感の嵐でした。大人の女性の恋心はどんなものだろうと憧れと興味も湧いた。私も日々揺れ動く気持ちを、日記をつけるように五七五の句に残そうと思ったのです」
恋心に限らず川柳を詠むときは、まず自分の心と向き合うという。そして気持ちを言葉に置き換えるのだ。
「この気持ちを表すのに、ぴったりな言葉はどれだろうと探すのです。たとえば、同じ 『笑う』でも微笑から爆笑までいろいろある。辞書やネットの類語検索を駆使したり、他の作者の川柳を味わって読むことでも表情豊かな言葉に出合えます。
自分の心を俯瞰し、言葉を当てはめる作業は気持ちが澄み渡ってすごく集中できます。恋の句は切なさや悲しみを詠むことが多いけれど、言葉に置き換える間に不思議と負の感情が癒されるのです」
ちなみに川柳は“詠む”というが、時に“吐く”ということもあるという。募る思い、モヤモヤした気持ちを、言葉に変えて吐き出すのだ。
「一句生み出すたびに、心が健康になる気がします」