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【著者に訊け】松尾清貴氏 史実に基づく長編『ちえもん』

 スリル満点の引き揚げに、その後に待つ衝撃の結末と、読み処に事欠かない本作。商売や利己的という言葉が本来持ちえた幅を感じさせ、己のためと人のためが何ら気負いなく合致する、ビジネスの理想を垣間見た思いがした。

「この結末は諸々の史実を踏まえた僕の創作ですが、お上には意地でも頼らないタイプの男が、あくまで商売のために、その仕事を請ける話にしたかった。金儲け=悪ではないはずなので。

 といって金を右から左に動かすだけのことを彼は商売とは呼ばないでしょう。結局は信じるに足る正道があるかどうかだと思います。例えば供給過多と言われる出版界で本が売れることとその本の価値は本来別物です。需給や景気のように自分の力ではどうにもならないことと何とかなることの狭間で何を成すべきか、僕自身は結構理詰めで考えるタイプかもしれません」

 歴史小説は時々の今をも描く──。そんな印象すら抱かせる、大きな物語だ。

【プロフィール】
まつお・きよたか/1976年福岡県生まれ。北九州工業高専中退後、渡米。飲食店等で働きながら1997年までNY在住。「実家が筑豊の山奥なので、都会に住みたかったんです」。その後もパリやプラハに行ったり、高浜原発や富士山頂の山小屋などでアルバイトを転々とする傍ら小説を執筆し、2004年『簡単な生活』でデビュー。著書は他に累計65万部を突破した『偏差値70の野球部』シリーズや『エルメスの手』『真田十勇士(1)~(7)』『南総里見八犬伝(1)~(4)』等。180cm、68kg、A型。

構成■橋本紀子 撮影■黒石あみ

※週刊ポスト2020年10月16・23日号

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