中村倫也は影のある社長役を好演

●演出の巧さ

 セリフを説明的に感じさせない演出術とテンポが巧い。ひとつひとつ生活のディテイルを丁寧に際立たせていく演出がいい。例えば雨粒のついたガラス越しに少しずつ近づいていくカメラ、徹夜仕事で机につっぷして寝た横顔に赤ペンの跡。演出は狙いすぎず、上手に「あるある感」を醸造している。

 一方、人間関係を際立たせる際はエッジの効いた演出で、例えば一つ傘の下で、樹木を送っていく社長の左肩だけが濡れている。彼女を思いやって傘をさす優しさが、濡れた肩で演出されていたりと随所まで神経が行き届く。

●脚本の巧さ

 コンビニとコンビニスイーツはどんな意味を持つのか。まずそこをきちんと定義しているのが巧い。コンビニは毎日4000万人が利用し「いつでもどこでもそばにあり誰もが同じ味を味わえる」、つまり生活のもっとも近くにある場。その卑近なところから大きな夢を羽ばたかせることもできるのだ、という明確なメッセージ性がある。

 その軸をしっかりと据えた上で、アイドルを賞味期限切れと言われクビになった主人公の過去と消費財・スイーツとを重ねあわせていく。使い捨てにされる存在の哀しさ、既存システムへの異議申し立てと挑戦に青春冒険譚としてのワクワク感が。時に「ものの価値は中心に近いほど高まる」とビジネス論も挿入したり。脚本はコンビニ業界で働く人々に取材し練り上げたというだけあって、コンビニなんてもう知っている、わかっている、というおごった態度がなく新鮮。

 たとえ飛躍的な設定やゴージャスなロケや超大物俳優が揃わなくても。卑近な日常を描くとしても「時を忘れさせるドラマ」は作れるのだ、と教えてくれています。

 ドラマ界の大御所たちがオリジナル作品によって敢えて「テーマを絞る」中で、このドラマだけは逆のベクトル。そう、世界の広がりを見せようとしている。出発点は「コンビニスイーツ」、そこから人生論、青春物語、お仕事モノ、恋愛、友情といった幅広い世界を描き出す挑戦をしている点こそ最大の魅力でしょう。

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