「即位礼正殿の儀」に参列するため宮殿に入る河井克行法相(当時)(時事通信フォト)
新聞記者、週刊誌記者がすでにX氏の事務所を尋ねたり、携帯を鳴らしているが、直接会えた社はないという。筆者も試しにX氏の携帯電話を鳴らしたが、何度かけても留守番電話のアナウンスが流れるだけだ。
裁判自体はまだ終わっていないため、中国新聞が報じたX氏の証言が「真実である」とは認められていない状態ではある。しかし、これらが全て事実だったとしたら、河井被告が選挙活動で使用した金は自民党から入金されたものが大半。証言ではX氏が昨年、克之被告の選挙区の自民党政治部団体から、およそ80万円の支払いを受けていることも明らかにされている。これらは100億円以上の政党交付金という、国庫からの支出がなければ実現しなかった大金だ。つまり、河井被告が指示したとされるネットでの活動は、国民の血税で世論を操作しようとしていた可能性が高い。もしそうなら、民主主義社会を愚弄する、許し難い行為が、わずか1ヶ月だったとはいえ法務大臣をつとめた議員の手によって行われていた前代未聞の事件と言えるだろう。
河井夫妻の裁判における一挙手一投足に注目が集まっているため、このネット業者の証言はなかなか話題には上がりにくいのかもしれないが、今後大きな問題に発展する可能性もある。
もちろん、与党や権力者だけが、こうしたネット工作を行なっているはずもなく、疑いや疑惑は野党や次の権力者を狙おうとする人々の中にも垣間見える。ネットが登場する前にも、選挙の度に候補者のスキャンダルを暴露する出所不明の「怪文書」が飛び出したり、総会屋など政治に近しい集団が特定候補のネガティブキャンペーンを行うことも珍しくはなかった。そうした手法は様々な規制によって、表の世界ではやりづらくもなっていたことから、活動の舞台をネットに移っている、という見方もできる。
海外の大きな選挙に関するニュースでは、フェイクニュース合戦が繰り広げられるなど「ネット工作」について盛んに報じられている。2016年米大統領選挙やイギリスEU離脱国民投票では、選挙コンサルティング会社がSNSを活用して誘導していた疑惑がもたれ、いまも調査と議論が続いている。海外事例について話題にすると、「民度の高い」我が国の市民は、そんな馬鹿げたことに騙されるはずはない、と考える人が必ずいる。だが、その思い込みこそが「ネット工作」の賜である可能性も、誰も否定はできないのだ。