文藝春秋への支払いが記された政治資金収支報告書。現在は閲覧できない
だが、政治資金で自費出版するケースは珍しい。メディア法が専門の田島泰彦・元上智大学新聞学科教授が語る。
「一般的に政治家が著書を出す場合は、出版社との間で一定の部数を買い取る約束をした上で商業出版してもらう『買い取り』の方法を取ることが多い。そして、買い取った本をパーティなどで配るわけです。菅さんがどうして自費出版にしたのかは謎です」
田島氏の指摘通り、小社も含めて政治家と買い取り契約を結ぶケースはごく一般的といえる。話題になったのが下村博文・自民党政調会長のケースだ。2016年に出版した著書『教育投資が日本を変える』(PHP研究所)を政治資金パーティで配布するため政党支部で1900冊(約287万円)購入し、フェイスブックで「ベストセラー各部門で1位に選ばれています」と宣伝していた(毎日新聞報道)。“ベストセラー政治家本”の一面でもある。
菅氏はなぜ「買い取り方式」にしなかったのか。当時の政治状況を考えると事情が垣間見えてくる。
単行本を出版した2012年3月は民主党政権時代。野党・自民党の中堅議員だった菅氏の著書には、商業出版するだけの訴求力はなかったのかもしれない。それでも支持者に“文藝春秋から本を出した”と大物政治家ぶりをアピールしたい──そんな思惑が「686万円もの政治資金を投じた理由」だったのではないか。
※週刊ポスト2020年11月20日号
今年出版された『政治家の覚悟』(左)と2012年に発行された『政治家の覚悟 官僚を動かせ』(時事通信フォト)