シングルマザーを演じる(時事通信フォト)
でも周囲で不倫している奥様=“ヤリ妻”たちのことを思い返すと、皆、優子と同じだ。不倫相手の前では夫には見せない表情をしながら、浮かれることなくスッと日常に戻っていく。皆、なぜか自慢げにその様子を独身の私へ報告してくれるので、彼女たちの不倫のリアルだけは知っている。今までそのことを深く考えることはなかったけれど、このシーンを見てまた笑いがこみ上げてしまった。
近年、話題になった不倫ドラマ『あなたのことはそれほど』(TBS系・2017年)や『ホリデイラブ』(テレビ朝日系・2018年)では、“サレ妻”が主流。夫の浮気に耐える妻、というのが定番化していた。もしくは『昼顔』のような、パート勤務や専業主婦で経済的には夫頼みの家庭で起きてしまう、妻の恋心の目覚め。
『恋母』の優子に見たひとつの新しい形は、妻が一家の大黒柱であること。シングルマザーの石渡杏(木村佳乃)もそうだ。経済的な部分の手綱を握り、家庭を支えて、恋に勤しむ。この様子を男性視聴者がどう思うのか? 疑問もわくが、これは現代の女性にとってごく自然なライフスタイルなのかもしれない。
主要キャストが最大限に生きる、好配役
物語が絶妙に面白く新しい、という見どころに加えて“主要キャストたちが浮き上がってくる配役”がある。
『恋母』では木村佳乃さん&小泉孝太郎さん、吉田羊さん&磯村勇斗さん、仲里依紗さん&阿部サダヲさん、という6人が主要キャストだ。一般的なドラマならこの周囲を、視聴者が「ああ、この人知っている!」と言えそうな“バイプレイヤー”が囲んで、物語が成立する。
ところが『恋母』では、例えば仲さんや木村さんの夫役という、割と主軸に触れるキャストも、他の作品ではあまり見かけない俳優陣が演じている。でも私が知らないだけで、おそらく各所で“バイプレイヤー”としては活躍しているのだろう。演技は完璧で、絶妙に存在感を消して、“しれっと”主要6人を抜群に引き立たせている。これが見どころであり、見やすさの理由だ。群像劇の正しいお手本だといえるかもしれない。