同年、東宝のオールスター映画『日本のいちばん長い日』に出演、日本の敗戦を認めず戦争継続のために狂奔する青年将校・畑中少佐を演じた。
「あれは最高だという人とダメだという人がいるんですよ。ダメと言ったのはプロデューサーの藤本真澄さん。『演技というものは七〇%か八〇%で止めなきゃダメなんだけど、お前のは一二〇%だ。それだとお客さんは乗れないんだよ。演技というのは、観ている人が主人公に乗り移れるようにしないといけない』って。まさしく、そうなんですよね。俺と対照的にそれができたのが高橋悦史さん。『あきらめろ、畑中』って、あの台詞の言い方とか、痺れるよね。
でも、あの時の俺の心境は演技では勝負できないということでした。三船敏郎さんはじめ、山村聰さん、笠智衆さん、島田正吾さん、とにかく出ている人たちが脇役まで大俳優なわけ。その中で、俺が主役なんです。
あの人たちには敵わないと思ったから、死ぬ気でやったんです。もういつ死んでもいいと思った。そこまでやっちゃったのよ。それがいいか悪いかなんて考える余裕もない。
死ぬ気でやったから、最後らへんなんて何を言っているか分からない。台詞がはっきりしないと言われたけど、そりゃそうですよ。だって死ぬ気なんですから。分かるわけがないんです。役柄だけでなく俺自身も狂気の中にいたということなんだ」
【プロフィール】
春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2020年11月27日・12月4日号