「私なんかは潜ってモリで突いたほうが早いし、そんなに簡単に親が釣竿を与えてくれるものでもないしね。年配の人は別だけど、われわれのような子供で釣りをする人なんて、そう多くはいませんでした。官房長官ももちろん潜りをやったけど、それでは醍醐味がないと言っていました。まだ雪が残っている水の冷たい四月の初めのころから釣る。三十センチ以上のイワナがいる時代でしたから、たしかにあれは醍醐味がありました。官房長官は子供にしては珍しく、釣竿を持っていてな。われわれのはせいぜい七夕のあとにつくる竹竿ですが、官房長官のは畳めて次々と足すタイプの立派な釣竿でした。そんなのを持っているのは、釣りを商いにしている人か、本当に道楽でやる人くらいでした。官房長官は好きだったね。年配の人の中に交じってやっていました」(同書より)
本物の“釣りキチ”だからこその哀悼だったのだ。