2008年、姉妹そろって全日本女子選手権で優勝。妹とは「2人で1つ」と小川は語る(写真/共同通信社)
だが、五輪に向かう道程では、夫の協力があるとはいえ、家事との両立は困難を極めたという。
「特にレスリングは体重コントロールが重要です。私は多いときには57kgあり、大幅な減量が必要でした。そこで代表に決まってからは、トレーニングに専念できるよう夫と話し合い、八戸の母に家事全般、3度の食事のサポートを頼みました。
母は栄養バランスを考慮し、その頃ちょうど流行っていた、タニタ食堂のレシピを参考に献立を考えてくれました。ご飯は100g、魚や肉、豆腐など筋肉の材料となるたんぱく質をメインに、野菜料理や具沢山の汁ものなど、バラエティー豊かで満足度の高い献立だったので、減量もつらくありませんでした」
そして31才で迎えた夢の舞台、ロンドン五輪では決勝戦まで勝ち進み、メダルは確実となる。だが、ここで最後の壁が立ちはだかる。1ラウンド目で、相手に1ポイント取られてしまったのだ。
「『このままじゃ負ける!』と焦り、すがるような気持ちで客席を見ました。すると、自衛隊のコーチたちが必死に応援してくれていて、『ダメだ、弱気の自分が出た』とわれに返ることができました」
落ち着きを取り戻した彼女は、2ラウンド目に1ポイント取り返し、3ラウンド目で2ポイントを取り、ついに念願の金メダルを手に入れる。
「マットから降りると夫は泣いていました。翌日会いに来てくれた妹とも抱き合って、ともに泣きました。自分を支えてくれた家族に、金メダルを見せられてホッとしました」
私が強くなれたのはサポートしてくれたコーチや家族だけでなく、吉田選手や同じ八戸出身の伊調姉妹などライバルの存在も大きかった。
「それに、父によく『人はどこからでもやり直せるから』と言われていましたが、私の人生はまさにその言葉通りだったと思います。つらいことがあっても、みんなで支え合って前に進めば必ず明るい未来につながっていく。金メダルがそれを教えてくれました」
【プロフィール】
小原(旧姓・坂本)日登美(おばら・ひとみ)/1981年1月4日生まれ、青森県出身。2005年中京女子大学(現・至学館大学)卒業後、自衛隊に入隊。2000〜2011年の間の世界レスリング選手権で8個の金メダルを獲得。2008年に現役を引退するも、2009年に復帰。2010年に1才下の後輩・小原康司さん(38才)と結婚。2012年にロンドン五輪のレスリング女子フリースタイル48kg級で金メダルを獲得。現在は自衛隊体育学校で後進の指導に当たる。6才男児と4才女児の母。
取材・文/廉屋友美乃
※女性セブン2020年12月17日号