12月22日に厚生労働省が公表したところによると、新型コロナウイルスによる雇い止めや解雇は12月18日の段階で7万7739人に及んだ。実質的には雇い止めや解雇でも、退職勧奨や表向きの自主的な退職、意図的なシフト減などによる退職などを含めると現実にはこの実数をさらに超えているであろうことは容易に想像できる。
「私の大学でも困ってる人が多いです。中退した子もいます」
このコロナ禍の経済的疲弊は日本の学生にも容赦なく襲いかかった。文部科学省は「新型コロナウイルスにより経済的な影響を受けている学生等への緊急対応措置「-学生の”学びの支援”緊急パッケージ(令和2年12月~)-」として支援を実施している。在学生の場合、アルバイト代の減収に対する緊急支援として10万円(非課税世帯は20万円)を支給、無利子貸与型奨学金事業も柔軟化した上で再募集している。また就職が決まらない学生にも有利子奨学金の貸与期間延長や休学中の者への有利子奨学金の継続貸与を実施、返還期限も猶予、延長としているが、現実問題として学生が学ぶため、生きるために学費と生活費を賄うには明らかに足りないだろう。またこの期に及んでも貸与であり、給付ではない。学生も借金漬けにするのが日本の文教政策だ。
「教えるの好きだし先生になりたいから塾の個別に戻りたいんですけど、あれはまったくお金にはなりませんからね。いま社員さんも余ってるから学生講師なんかいらないんです」
なるほど、マヨさんは塾講師の経験があるのか。でも彼女の言う通り、コロナ禍の統廃合で社員講師やプロ契約の講師すら切られているのが現状だ。まして集団授業でなく学生さんの個別講師では、何コマか入れたとしてもまともな収入にはならないだろう。
「だから短期の派遣とかウーバーでしのいで、来年には新しいアルバイトを見つけます」
そう言って微笑むマヨさんと別れた。この経験はきっと教師になったときに生かされるだろう。それまでに忌々しいコロナ禍が消え失せてくれていたらと願わずにはいられない。氷河期世代は我々だけでたくさんだ。
総務省の労働力調査では2020年7月の女性雇用者数は前年同月比で81万人(!)減った。小売や外食の非正規従事者が多く、接客、対人系のエッセンシャルワークが大半という就業形態に直撃した形だ。12月25日発表の11月労働力調査でも非正規雇用全体で62万人が減ったが、そのうち女性は37万人と、依然として女性の減少幅が大きい。女性の一人暮らしやシングルマザーなどの世帯主はもちろんだが、日本の女性非正規の多くは夫の家計を補填するために就業している。つまり女性非正規の減少は一般家庭の収入減にも直結している。マヨさんの家はどうか知らないが、息子や娘の学費のためにパートに出ている母親だって多い。そもそも同調査では就業者数そのものが55万人減で、8ヶ月も減少が続いていると分析されている(!)。もはや2021年以降の雇用なんて誰にも約束されていない。
マヨさんのことを「学生なんか親掛かりだしどうでもいい」と思う向きもあるだろうが、そんなコロナ禍に疲弊した市井の意見がどんな業種、どんな雇用形態に対しても露呈している。「公務員だからどうでもいい」「年金者なんかどうでもいい」「正社員だからどうでもいい」「非正規なんかどうでもいい」――。いよいよ第三波にまみれた日本、コロナ元年を越したこの2021年、命をとるか経済をとるかの選択に、「誰を助けるか」の選別が加わろうとしている。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。寄草『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社)、著書『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)など。