客は配達員の拒否ができない。つまり、ウーバーイーツはマッチングアプリとしてのアカウント停止という最終判断は下すが、それには客と店による評価の積み重ねに委ねられている。また客は配達員の拒否は出来ないが、受け取りの拒否は可能である。もちろん配達員側も客を評価機能でそれが正しかったか否かの評価はできる。
しかしすべてはAIによる自動判断、結局のところウーバー側がマッチングアプリとして配達員に対するアカウント停止を実行しなければ単なる数字上の積み重ねでしかないし、客は評価の低い配達員でも拒否できない。これも不正にアカウントを複数、作成するなどして配達回数を増やし、お互いに融通し合うことで「成りすまし配達」していると噂される外国人グループの出現を容易にした一因と筆者は考える。
「寒いですし、完全防寒の地味な格好にしてます。なるべく変な目に遭わないように」
変な目、とは客とのトラブルのことだ。マヨさんは数日前、「やった女の子だ」「マヨちゃん、かわいいね」「スクショしたからね」とアパートの男性客に言われたという。もちろんその男はマヨさんの写真も名前もしっかり自分のスマホに残しただろう。怖くないのか。
「怖いですけど、そんなの気にしてたら働けないですよ」
残念ながら、そんなの気にしていたら働けないほどに、女性が働く上での性的な被害が大なり小なり起こり得るのが日本社会だ。マヨさんは友人の例も話してくれた。
例えば、テレアポのバイトをしている友人は年中いやらしい電話が特定の男からかかってくる。その男、もはや名物男の域に達しているという。他にもバイト先の客につきまとわれたり、出待ちされたり、家までつけまわされたり。社会的なセクハラは配達員に限らず、働く若い女性、とくに接客業やそれに類する仕事の女性につきものの悩みだ。拙ルポ「ベトナム人女子留学生がバイト先のコンビニで感じた身の危険」でも言及したが、男性労働者にも悩みはあるのは当然として、若い女性の労働者にはそこに性的なハラスメントが加わる。
「名前と顔写真が人質ですから、不安ですね」
筆者が知る別の配達員では「○○ちゃん待ってたよ」と言われた女性もいる。限定された配達エリアで競争率が低ければ、同じ客との遭遇率が高くなる。女性が客の場合も同じ配達員との遭遇率は高くなる。配達先のオフィスやピックアップ先の店と仲良くなったという話は美談だが、対個人となると不穏な噂も多い。もちろんそんなのごく一部とはいえ、人間をなんだと思っているのか。
「でもしょうがないです。バイト先がなくなって、少しでも稼がないといけないんで」
大学で困っている人は多い。中退した人もいる
詳しい事情は話してくれなかったし筆者も深くは聞かなかったが、マヨさんが学生さんで生活のためにお金が必要なことだけはわかった。アルバイトを雇い止めされたことも。