伝説の泣ける4コマとして熱狂的ファンを生み、2007年には映画化された『自虐の詩』や、第17回手塚治虫文化賞短編賞を受賞した『機械仕掛けの愛』など、ユーモアやギャグのなかに生きることの愛おしさを散りばめた作風で知られる漫画家・業田良家氏(62)。NEWSポストセブンで公開中の『業田良家の「4こわ漫画」Season 1』で業田氏は従来のアナログ手法から「脱皮」して、初のフルデジタル制作に挑戦した。ベテラン作家を新たな表現方法に駆り立てたものは何だったのか——。
「きっかけは『デジタル作画はスクリーントーン(漫画の背景や登場人物などに貼るカケアミや模様柄などの粘着フィルム)を貼るのがすごく楽』との噂を聞いたことです。長年やってても、手作業でトーンを貼るのは大変な作業なので、その苦労から解放されるのならやってみようと、デジタル挑戦を思い立ちました」(業田良家氏、以下同)
そう振り返る業田氏は「習うより慣れよ」とばかり、2年前にiPadを購入してデジタル制作を試みた。このときは思うようにいかず挫折したが、1年ほど前から再挑戦を始めた。
「デジタル作画に詳しいアシスタントに教えてもらい、本やネットで勉強しました。手順を間違えたり、変なボタンを押してしまったり、ペンツールのつもりで描いたら実は消しゴムツールを選択していたりと失敗ばかりでしたが、『ビッグコミックオリジナル』に連載中の『百年川柳』でもベタ塗り(原稿のある範囲を黒く塗りつぶすこと)とトーン貼りの実践を繰り返し、何とか体で覚えていきました。そして11月末に掲載を始めた『4こわ漫画』で初めて、下書きから完成までフルデジタルで行う漫画制作に挑戦しました」(業田氏・以下同)
アナログ(手描き)の漫画制作では紙に鉛筆などで下絵を描き、そこにインクを使ったつけペンで人物や背景などの線を細かく入れて(ペン入れして)いく。さらにベタを塗る、スクリーントーンを貼るなどの作業を加えて、作画はようやく完成するのだ。
一方のデジタル作画では、基本的に紙ではなくPCのタッチパッドやタブレット上にデジタルペンで絵を描き、加工していく。ベタを塗る、トーンを貼るといった漫画ならではの作業もすべて専用ソフトやアプリを通じたデジタル上の作業になる。
デジタルに挑戦した業田氏が肌で感じたのは、とにかく「ラク」で「楽しい」ことだった。