ライフ

漫画家・業田良家 60歳から「デジタル作画」挑戦の理由

デジタル制作にも手描きの味わいを残したいという

デジタル制作にも手描きの味わいを残したいという

「デジタル=効率化」だけではなかった

 一方でデジタルならではの「弱み」も業田氏は感じている。

「理想の線は引けるけど、あまりきれいすぎると人間味がなくなります。背景の建物に写真を取り込んで加工するやり方もありますが、僕はやりません。トーンによるグラデーションもデジタルは白と黒の間にグレーが入ったような仕上がりになり、絵ではなく写真のような感じになります。それでは漫画でなくなるような感じがするので、僕はあまり使いたくありません。漫画には“手描きっぽさ”を残しておきたいんです」

 マンガに限らず、どの分野でもデジタル化されるとアナログで行っていた煩雑な作業が効率化されて、完成までの時間が短くなるケースが目立つ。だが業田氏の場合、作業時間は短くなるどころか長くなったという。

「デジタルは上手に使えば時短になるのでしょうが、僕はこだわったらとことんやってしまい、どこでやめていいかわからなくなる。その結果、手で描くより時間がかかっています。通常、4コマ漫画は手描きだと1本4時間くらいで書けますが、デジタルでやると逆に時間がかかって12時間くらいかかることがあります。『4こわ漫画』も全20話のうち前半10本はフルデジタルでしたが、“これじゃ締め切りに間に合わない”と思って、後半からはペン入れまでを紙に描き、それをパソコンに取り込んでデジタルでトーンやベタを仕上げるやり方に変えました」

 陽性者数をファックスで報告するような一連のコロナ対応をみても、デジタル化は日本社会にとって喫緊の課題だ。とはいえ長年、同じやり方を続けてきた人ほど、成功体験が足かせになって新たなチャレンジをしにくくなる。それでも業田氏が勇気をもって一歩を踏み出し、試行錯誤しながらデジタルに移行した背景には、「新しい漫画を描きたい」という熱い思いがある。

「世の中がデジタルだらけになるなか、デジタルに対応できないと変化についていけない気がしたんです。僕はスマホやデジタルならではの表現が絶対にあると思うし、それを見つけることでまた新しい漫画が描けるんじゃないかと思う。道具が変われば、漫画にも新しい発想が出てくるはずですし、実際に『4こわ漫画』では新しい取り組みができているという手ごたえもあります。

 漫画業界もどんどん新しい作家が出てくるので、これまでと違うものを描かないと飽きられます。自分で描いていても、新しいところがないと面白くないんですよ」

 何やら難しそうだとデジタルを敬遠する人も多いが、デジタルは手段にすぎない。大切なのは、新しい手法を取り入れることで、自分をさらに向上させようという強い気持ちを持つことなのだと業田氏の挑戦は教える。

【プロフィール】業田良家(ごうだ・よしいえ)/1958年福岡県生まれ。1983年、「ゴーダ君」でデビュー。主な作品に『自虐の詩』『男の操』『神様物語』『機械仕掛けの愛』などがある。『シアターアッパレ』『業田良家の「ガラガラポン!日本政治」』など政治風刺漫画も多数手がける。現在、「機械仕掛けの愛」(ビッグコミック増刊号)、「百年川柳」(ビッグコミック・オリジナル)、「それ行け!天安悶」(正論)を連載中。新作の4コマギャグ漫画『業田良家の「4こわ漫画」Season 1』をNEWSポストセブンにて公開中。
 
◆取材・文/池田道大(フリーライター)

関連記事

トピックス

結婚生活に終わりを告げた羽生結弦(SNSより)
【全文公開】羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんが地元ローカル番組に生出演 “結婚していた3か間”については口を閉ざすも、再出演は快諾
女性セブン
「二時間だけのバカンス」のMV監督は椎名のパートナー
「ヒカルちゃん、ずりぃよ」宇多田ヒカルと椎名林檎がテレビ初共演 同期デビューでプライベートでも深いつきあいの歌姫2人の交友録
女性セブン
NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン