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漫画家・業田良家 60歳から「デジタル作画」挑戦の理由

手作業では困難な細かい表現が可能に

手作業では困難な細かい表現が可能に

デジタル作画で得た「緊張からの解放」

「まずはトーンを貼る苦痛から解放されました。それになんといっても助かったのは、失敗しても何度も修正できること。手描きの場合は紙にホワイトを塗って修正して、そこからまたペンを入れますが、紙の表面がどうしても凸凹になり、なかなかきれいにできません。しかしデジタルならパッと消してすぐやり直せます。30年以上漫画家をやっていても人物などのオモ線(輪郭などの太くはっきりした線)を自分の思うように引くのは難しいのですが、デジタルならすぐ修正できるので、思う通りの綺麗な線をどこまでも追求することができます。

 画面を反転させて左右のバランスを見ることもできるし、どんな曲線だって描くことができる。画面を拡大すれば、手描きでは絶対にできない細かな部分の描き込みや、トーンの上に文字を書くことも簡単にできる。バック(背景)の建物をパソコン上で作画するときなんか、まるでプラモデルをつくっているようで楽しいです」

 これまでの漫画制作には、ペンでカリカリカリカリと心地よい音を立てながら線を描いていくイメージがあった。紙を使わないデジタルで「描く喜び」はどうなるのだろうか。

「確かに手描きには線を引く指先の快感がありますね。ベタを塗るときに筆先から紙にインクが移っていったり、色を塗る際に水で溶いた絵の具が紙に染み込んでいく時の気持ちよさもデジタルにはありません。一方でデジタルは、ベタやトーンにする部分がクリック一発でパッと変わる快感があります。とくにこれまで苦痛でしかなかったトーンを一瞬でパッと貼ることができると、ニンマリしちゃいます(笑)」

 1983年に4コマギャグ漫画『ゴーダ君』でデビューし、40年近いキャリアを誇る業田氏。浮き沈みの激しい漫画界で長年にわたって第一線で描き続けてきたベテランは、「デジタルは緊張が少なくて本当にいい」と指摘する。

「紙にペンで描くのは緊張感がすごくあるんです。とくに20ページの作品の最初の1〜2ページを描き始めるときは、失敗したくないからものすごく緊張します。その分、デジタルは簡単にやり直せるから失敗を恐れることなく描き始められます。アナログではシャーペンで下絵を描いて間違ったら消しゴムで消すけど、デジタルでは消すのもワンクリックでサッと消せる。いまでは紙に消しゴムを使うことすら、重たい作業に感じてきました(苦笑)」

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