話し言葉を生かして書く小田流の聞き書き術
話を聞きながら、録音したりノートに書き留めたりして最終的には原稿をまとめて本(冊子)にする。数ページを簡単に綴じたものから、写真なども盛り込み数十ページに製本したものまで、思い思いの一冊ができる。
「ぼくはできるだけ相手のしゃべり言葉で書くようにすすめています。聞き書きは人生の物語と、その人の生きた証を形にするものだからです」
この手法へのこだわりは、小田さんの肩書に初めて大きく【聞き書き】と記された著書『幇間の遺言』(集英社)の語り手、悠玄亭玉介師匠との出会いがきっかけだという。
「師匠は粋な遊びの世界を生き抜いた由緒正しき下町の芸人で、病床に1年近く通って話を聞きました。とにかくおもしろかった。初日に“あんたなんだい、いきなり病院に来て話聞かせろって冗談じゃねーや”って(笑い)。これを普通の文章に置き換えては、 おとっつぁんらしさが全然出ない。それでしゃべり言葉で原稿を書いた。聞き書きが世に認められた代表作です」
しゃべり言葉はまるで文字からイキイキした声が聞こえてくるような勢いがある。これが聞き書き本を受け取る本人や家族にとって大きな癒しになるという。
「しゃべり言葉が大事とはいえ、録音したそのままを書き起こすのではダメ。場合によっては話し手の言葉通りでなくてもよいのです。本当は言いたいけれど言えなかったこと、うまく言葉にできなかったことも、愛情を持って話し手の気持ちを推し量り、その人になり切って書く。言い換えや補足も聞き手(書き手)の裁量。かえってそれが本人や家族の心に響くものになったりします」
聞き書きをしても傍から忘れてしまう認知症の人にもおすすめ。話したことを忘れても、聞き書き本が“記憶の番人”となり、開けばいつでも自分の物語と出会えるのだ。