国際情報

大前研一氏 歴史を鑑として「習近平氏のヒトラー化」に警戒せよ

大前研一氏は、今後の中国との向き合い方をどう考えるか

大前研一氏は、今後の中国との向き合い方をどう考えるか

 新型コロナウイルスへの対処に世界中が追われるなか、中国はいち早く感染拡大を封じ込めたように見える。そんな中国では「改正国防法」が成立。この法律にはどのような意義があるのだろうか。経営コンサルタントの大前研一氏が、いまの中国の在り方と、どのように対処してゆくべきか解説する。

 * * *
 昨年末、中国で改正国防法が成立した。日本の一部マスコミでも報じられたが、さほど話題にならなかった。しかし、同法改正が持つ意味は大きい。

 国防法は中国の安全保障の基本法で、今回の改正により、人民解放軍が守る対象として国家主権や領土に加えて「発展利益」が脅かされた場合も軍民を総動員できることになった。アメリカの経済制裁に対する牽制という見方もあるが、この理屈がまかり通ったら、いつ米中間で軍事衝突が起きても不思議ではない。

 中国の劉明福・国防大学教授は著書『新時代の中国の強軍夢』中で、「武力に第2位はない。武力は第1位でなければならない」と米軍を凌駕する世界最強の軍隊の建設を提言。その上で「武力を使用してでも台湾統一に最大限の努力を注がねばならない」としている(出典/『JBpress』2020年12月21日付/軍事研究家・矢野義昭氏)。要するに同書は台湾有事を想定したものであり、中国の台湾侵攻がますます現実味を帯びてきているのだ。

 香港問題は、習近平国家主席にしてみれば、台湾統一の“予行演習”だと思う。香港は「高度な自治」を1997年の返還後50年間維持する「一国二制度」が保障されていた。しかし、反政府的な動きを取り締まる「香港国家安全維持法」が昨年6月30日に施行されて「一国二制度」は事実上骨抜きとなり、香港の民主化運動を封じる習近平政権は、他国からの非難を「内政問題に干渉するな」と平気で突っぱねるようになった。

 チベット問題でも中国は国際的な批判を浴びてきたが、結局60年余り経過して「漢化」(漢民族が周辺民族を同化および融合すること)に成功した。インドに逃れている宗教指導者ダライ・ラマ14世も最近は静かになってしまったし、彼が後継指名したパンチェン・ラマ11世も今では「普通のサラリーマン」になったとCCTV(中国中央電視台)で報じられている。習主席は、新疆ウイグル自治区や内モンゴル自治区の問題も、国外の批判に耳を貸さずに抑圧を続けていけば、そのうちチベットと同じように「漢化」でき、それを世界も容認せざるを得なくなると考えているのだろう。

 この状況を端的に言えば「習近平のヒトラー化」ということになる。ナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)を率いた独裁者ヒトラーは、もともとポピュリスト(大衆迎合主義者)だった。第一次世界大戦後の莫大な賠償金に苦しむドイツ国民の支持を獲得するため、「選民思想」に基づき「自分たちが最も優秀な民族」だと主張した。これはまさに習主席がスローガンに掲げている「中華民族の偉大な復興」に通じる。

関連キーワード

関連記事

トピックス

フリー転身を発表した遠野なぎこ(本人instagramより)
「救急車と消防車、警官が来ていた…」遠野なぎこ、SNSが更新ストップでファンが心配「ポストが郵便物でパンパンに」自宅マンションで起きていた“異変”
NEWSポストセブン
盟友である鈴木容疑者(左・時事通信)への想いを語ったマツコ
《オンカジ賭博で逮捕のフジ・鈴木容疑者》「善貴は本当の大バカ者よ」マツコ・デラックスが語った“盟友への想い”「借金返済できたと思ってた…」
NEWSポストセブン
モンゴルを訪問される予定の雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、「灼熱のモンゴル8日間」断行のご覚悟 主治医とともに18年ぶりの雪辱、現地では角界のヒーローたちがお出迎えか 
女性セブン
米田
《チューハイ2本を万引きで逮捕された球界“レジェンド”が独占告白》「スリルがあったね」「棚に返せなかった…」米田哲也氏が明かした当日の心境
週刊ポスト
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
「『逃げも隠れもしない』と話しています」地元・伊東市で動揺広がる“学歴詐称疑惑” 田久保真紀市長は支援者に“謝罪行脚”か《問い合わせ200件超で市役所パンク》
NEWSポストセブン
佐々木希と渡部建
《六本木ヒルズ・多目的トイレ5年後の現在》佐々木希が覚悟の不倫振り返り…“復活”目前の渡部建が世間を震撼させた“現場”の動線
NEWSポストセブン
東川千愛礼(ちあら・19)さんの知人らからあがる悲しみの声。安藤陸人容疑者(20)の動機はまだわからないままだ
「『20歳になったらまた会おうね』って約束したのに…」“活発で愛される女性”だった東川千愛礼さんの“変わらぬ人物像”と安藤陸人容疑者の「異変」《豊田市19歳女性殺害》
NEWSポストセブン
児童盗撮で逮捕された森山勇二容疑者(左)と小瀬村史也容疑者(右)
《児童盗撮で逮捕された教師グループ》虚飾の仮面に隠された素顔「両親は教師の真面目な一家」「主犯格は大地主の名家に婿養子」
女性セブン
組織が割れかねない“内紛”の火種(八角理事長)
《白鵬が去って「一強体制」と思いきや…》八角理事長にまさかの落選危機 定年延長案に相撲協会内で反発広がり、理事長選で“クーデター”も
週刊ポスト
たつき諒著『私が見た未来 完全版』と角氏
《7月5日大災害説に気象庁もデマ認定》太陽フレア最大化、ポピ族の隕石予言まで…オカルト研究家が強調する“その日”の冷静な過ごし方「ぜひ、予言が外れる選択肢を残してほしい」
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で、あられもない姿をする女性インフルエンサーが現れた(Xより)
《万博会場で赤い下着で迷惑行為か》「セクシーポーズのカンガルー、発見っ」女性インフルエンサーの行為が世界中に発信 協会は「投稿を認識していない」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
《東洋大学に“そんなことある?”を問い合わせた結果》学歴詐称疑惑の田久保眞紀・伊東市長「除籍であることが判明」会見にツッコミ続出〈除籍されたのかわからないの?〉
NEWSポストセブン